ここでは、団長が今まで師事してきた多くのプロの打楽器奏者・指揮者・文献の教えの中で目から鱗だった教えのうち、打楽器奏者にとっても大事と思えるものの一部を述べていきたいと考える。演奏する時の参考にしていただければ幸いである。

もっと詳しい内容が知りたい方は、後で紹介している参考文献を読んでみるといいと思う。

             

第1章 演奏と宝探しは同じ

第1節「演奏とは?」
第2節「宝の地図の解読(楽曲分析)」


第1章 演奏と宝探しは同じ?

 私は中学生・高校生を指導させていただく機会をよく持たせていただいているが、その時よく、「なるほど、楽譜の音譜を正確に演奏しているし、ダイナミクスもついている。しかもテンポもメトロノームにピッタシあっている。しかし、おもしろくないなぁ」と感じることが多々ある。生徒にしてみれば、「楽譜どおりに演奏していて何の問題があるんだ。」と今にも言いたそうである。ここで、私は言いたい、

『ほんとにみんなは楽譜どおり演奏しているのだろうか?』

第1節 演奏とは?

 「こんな当たり前の事もう知っているよ。」という声が多数聞こえてきそうだが、私を含めて案外この事を理解して演奏している人は少ないハズ!!もう1度初心に戻るつもりで読んでみると新たな発見があると思うよ!!!!!!! 

♪演奏とは

 「音楽」とは、文字通り音で創られた作品だが、その多くは今日楽譜を通して演奏されている。ここで、そもそも「演奏」とは何か?ということになってくるが次のように定義されている。

<演奏とは音楽作品(通常は作曲者によって創作され、楽譜という形で掲示される)を、現実の音として具現化し、聴衆の心に作曲家の創作意図を伝えるとともに、演奏者自身の想いをもその作品を通して伝える行為である。>

このことから分かるように、演奏者は物言わぬ楽譜から、積極的にいろいろな情報を読み取り、音楽作品の音楽的内容や意味、作曲家の創作意図を的確に分析、理解しようとするとともに、それをあたかも自分自身で創った音楽であるかのように演奏者自身の創造的な解釈を加え、自分自身の言葉で聴衆に話しかけることが重要になってくる。

♪ 演奏者の役割

 上の内容を要約すると、演奏者は作曲家と聴衆との間の存在であり、作品の『翻訳者』『表現者』という2つの役割を担っていることになる。

つまり今まで述べてきたが、楽譜は直接音を出してくれるものでもなく、声を出してくれるものでもない。楽譜は作曲家の創作イメージを演奏者に伝える為に抽象化した設計図にすぎない。しかも楽譜は、本質的にデジタル、つまり不連続な記述しかできないものである。ここで演奏者という役割が必要になってくる。

 『翻訳者』としての演奏家に求められる役割は、抽象的な設計図としての楽譜から、デジタル記号化された作曲家の考え(元来アナログ、つまり連続的に変容しているもの)を、主観を交えずに忠実に翻訳して、その音楽的内容を理解しようとすることである。この作業を一般的に<楽曲分析>と呼ばれている。

 『表現者』としての演奏家に求められる役割は、翻訳という行為から作曲家との共感が芽生え、楽譜というデジタル記号を演奏家自身の表現意図をも加えて、アナログ的な演奏表現が可能なように再変換し、さらにそれを具体的な音として聴衆に訴えかけることである。この作業を一般的に大きな意味で<演奏解釈>と呼ばれている。

以上の演奏者の使命を簡単な例でたとえると

 今ここに、楽譜という宝の地図があります。さすが宝の地図だけあって、暗号で書かれているため、すぐには宝の場所は分かりません。そこでまず、暗号を解読する必要があります。解読の仕方によっていろいろな解釈の仕方がでてきますが、宝を埋めた人の考えはただ1つのハズです。よって、いろいろ試行錯誤して、より正確な宝の場所を探さなければいけません。
 次に、宝の場所が分かれば、各自今できる手段でその場所に行き、宝を探す事が必要です。その結果、宝という素晴らしい音楽を自分の物にできるというわけです。このように宝探しをする人=演奏者というわけである。

 ここで、『ほんとにみんなは楽譜どおり演奏しているのだろうか』という最初の問いについて考えてみよう
 今まで述べてきたことで、理解された人も多いと思うが、面白くない演奏は楽譜を表面上のみ演奏しているに過ぎないのである。楽譜という情報源から、より深い情報を読みとれていないのである。面白い演奏にするには、そこから更に1ステップ上(今まで述べてきた事)を求める必要がある。

 

 次回は更に具体的な楽曲分析について考えていきたい。

このページの参考文献は

保科 洋 著   『生きた音楽表現へのアプローチ』 (音楽之友社)1998
北村 憲昭 著  『音楽のマニュアル』 です。


目から鱗:第1節「演奏とは?」のTOPへ
第2節「宝の地図の解読(楽曲分析)」


第2節 宝の地図の解読(楽曲分析)

 第1節で述べてきたことから、宝物(音楽)を得るためにはまず、暗号で書かれた宝の地図(楽譜)を解読しなければいけない。そこでここでは、解読(楽曲分析)について考えていきたい。

♪ 音は生きている。

『一音入魂』という言葉をコンクール会場に行くとよく見る事ができる。私も高校時代よく使っていた言葉だし、好きな言葉でもある。しかし、ここで疑問に思う点がある。それは、生徒がこの『一音入魂』という言葉をどのような意味で使っているのだろうか?という事である。

ここで多くの生徒が使っている『一音入魂』の意味を考えてみると、一つの音に自分の全魂を注入しようとすることで、一つの音に集中し、音を大事にするという意味で、使われていると考える。(少なくとも私が高校時代はそうだった。)

しかし私が言いたい『一音入魂』は、上の意味も踏まえた上でもう一つ、追加したいのである。

私が言いたい『一音入魂』とは一つ一つの音(もしくはいくつかの音がまとまったもの)には、必ず曲上で意味、役割があるということである。つまりこのことは、全ての音は生きており、魂を持っているということになる。すなわち、音には魂がある、『一音入魂』ということにつながる。

もしも機械のようにただ単にメトロノームにあわせて、音を再現するだけであれば、そこには意志を感じる事は出来ず、聴衆には器械的な無味乾燥した演奏に思え、感動することはできない。そこには、情熱も感激も楽しさも悲しさもなく、あるのは、路傍の石のような無機的な音だけである。

♪ グルーピング

それではどのようにして、音に魂を入れたらいいのか考えていきたい。

そもそも楽譜の音符とは、英語のアルファベットや日本語のカタカナの文字にあたるもので、単独では音楽的意味を持たないものである。(アー、などの感嘆詞や句読点などの意味を持つ例外はあるが・・・。)

 このようなただの文字の羅列では、文章の意味を的確に伝えられないどころか、場合によっては間違って全く別の意味に判読されてしまう可能性もある。そうなってしまうと、聴衆に解り難いもの、分からない音楽となってくるのである。 

それでは、文字の羅列に等しい楽譜に意味を持たせるにはどうしたらよいか?

その答えがグルーピングである。

例えば英文は、単語ごとに隙間を開けることによって、はじめて意味を伝達する機能が働く。つまり、個々のアルファベットをグルーピング(区切る)することにより、単語としての意味を持たせているのである。


IamaPercussionplayer.

I am a Percussion player.

 以上のことは、音楽においても同様であると考えられる。音楽も言葉と同様に、単語(意味を成す最小単位)に相当するモチーフがあり、他のモチーフと結びあわされて文フレーズを構成する。さらには、フレーズ同士が関連し、クライマックスの構成・・・、そして、最終的に曲を構成していっているのである。

このことから考えても、音符に音楽的意味を持たせるためには、まず複数の音符をグルーピングし、単語であるモチーフを考えていかなければならないのである。

 そして、単語がさまざまな品詞に分けられるのと同様、モチーフについてもフレーズの中核を意味しているもの、装飾的な意味を持つもの、モチーフとモチーフを結び合わせる接続詞的な意味を持つもの、フレーズの終わりに句読点的な意味を持つ短い音など、いろいろな意味をもつモチーフがあり、それを理解する事で、作曲家がどこに主語をおき、どのような言い切り方をしているのか、読み取らなくてはいけないのである。

 以上の事から、演奏のための楽曲分析とは

 楽譜に記された音符の状態に即して音をグルーピングし、それぞれの音の役割を理解し、それを通して作曲家の意図を読み取ることである。

以上、第1節、第2節をまとめると

音楽とはピラミッドである。ピラミッドが丈夫で永遠に存在するためには、まず各々の段(フレーズ等)がそれぞれの役割を健全に機能しなければいけない。
そのためには、各段を形成している最小単位である1つ1つの石(モチーフ)が丈夫で、しっかりしていなくてはいけないのである。

 次回はお待たせ!!!
いよいよ、グルーピングの仕方を考えたい。

参考文献は

保科 洋 著   『生きた音楽表現へのアプローチ』 (音楽之友社)1998
村田 千尋 著  『音楽の思考術』(音楽之友社)2000 
北村 憲昭 著  『音楽のマニュアル』 です。


目から鱗:第1節「演奏とは?」へ
目から鱗:第2節「宝の地図の解読(楽曲分析)」へ