贖罪の時 序章2
再会
セイルーンにおいてパーティが決定された日の翌日。
とある町の、とある鈍器&陶器(主に壷)を売っている小さな店の中で、今日も盛大な子供の泣き声と、情けない男の声、そしてやや甲高い女性の声が響いていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁん!!」
火のついたように泣いているのは三歳くらいで、薄い緑の髪をした少年だ。何か気に入らないことでもあったのか、その大きな泣き声で精一杯自己主張をかましてくれていた。その横で赤い隻眼の獣人、グラボスが涙目で何とかなだめようとしている。
「ああああ、ヴァル様泣かないでくださいよぅ!おいっ、ジラス!!何とかしろよ!!」
横にいる赤い狐に命令をする。黒い眼帯をした赤い狐、ジラスもすでに涙目だ。
「そ、そんな無茶な!親分も協力してくださいよう(滝涙)!!!」
「ば、馬鹿言うな!俺はこの壷を磨いておけと姐さんから言われてるんだ!だからヴァル様はお前の担当に決定したんだ!!」
「そ、そんなぁ!ズルいっすよ、おやぶぅぅぅん・…」
「じゃあ、なにか。姐さんから言われていた仕事ができてなくて、叱られたいのか?俺はいやだ。やられるならおまえだけで行け!!」
「うぇぇぇぇぇ!おやぶぅぅぅん。そりゃないっすよぅ…・・」
「やっかましい!!俺に頼るな!!!とにかくヴァル様のお守りはおまえに決定!!」
「ひっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うぎゃあああああああああああああああああああ!!」
盛大に口喧嘩をしていた二人の声に驚いたヴァルが、更に大きな声で泣き始めてしまった。
『ああああああああああああああ!!!』
二人が絶望的な声を出した瞬間、背後のドアが勢い良く開いた。というより、吹っ飛んだ。大声で泣いていたヴァルは、扉の吹っ飛ぶ音にびっくりして泣き止んでしまった。
そして、奥から長い金髪の、すらりとした美女が出てきた。しかし、その美しい顔は今は怒りに燃え、片手には棘付きメイスを握り締めている。
この店の主人であり、さっきから二人が恐れている姐さんでもあるフィリアだ。
『ひぃぃぃぃぃ!!あ、姐さん!!』
ふたたび、声をハモらせお互いにしっかりと抱き合う。その顔に浮かんでいるのは間違いなく恐怖だ。
そんな二人を、じろりと睨み付けると、手に持っていたメイスを杖のようにして床にたたきつける。めきゃっ、という音と共に床の一部が破壊されているが、フィリアは気にした様子もない。
「……まったく、あなた達ときたら店の掃除と子守りも満足にできないなんて。この間しっかり教えたでしょう!もう、まったくヴァルガーヴはあなた達にどういう教育をしていたのかしら」
「い、いや、姐さん。別に俺達、子守りや店番のためにヴァルガーヴ様に拾われたわけじゃぁ・・…」
「お黙りなさい!!」
一喝したフィリアの目が一瞬危険な色に光る。
「はいぃぃぃぃ」
涙を流しながらお互いに抱きしめあう。彼女は、今は美しい人間の女性の姿をして入るが、その本性は黄金竜(ゴールドドラゴン)。もし本気で怒れば、彼らなど一瞬で消し炭である。
「とにかくですね、あなた達にはもっと常識を知ってもらう必要があります。明日からはもっと、もっと特別な強化メニューを作って差し上げますから、気合を入れてやってくださいよ」
「き、強化メニュー?」
「ええ。ヴァルの子守り連続耐久24時間と、店の掃除“徹底的にきれいになるまで”をやってもらいます!」
「いままでとおんなじじゃねぇかよ!?」
思わず突っ込んでしまったグラボスに、フィリアは意味ありげな笑みをむけた。
「同じ?いいえ、今までとはすこうし違います。もし、今いったことができなければ………・」
『で、できなければ……・・?』
「グラボスさんは“再び大気圏三周コース”」
「ひぃぃぃぃっぃいぃぃい!!!!!!」
「ジラスさんには、“花火と一緒に炸裂してみようコース”が用意されています」
「………・あぅ」
ぽてっ。
「うおい!ジラスよぅぅぅぅぅ!!!」
ショックのあまり、卒倒してしまったジラスをグラボスが激しく揺さぶる。が、ショックが大きかったためか、グラボスに振られすぎて目が回ったのか(恐らくこっちだろう)、「きゅう」と小さく鳴いただけだった。
「と、言う訳で早速今日から………」
「邪魔するぞ」
フィリアが、軽やかにワンステップ踏み出しかけた瞬間、玄関から男が入ってきた.
白い貫頭衣に身を包み、フードを目深にかぶっているために目だけしか見ることはできない。しかし、世界広しといえどもこんな怪しさ大爆発な知り合いは、一人しかいない。
「ゼルガディスさん!!」
「相変わらずだな、フィリア」
低く笑うと、目深にかぶっていたフードをはずした。
細い針金でできた銀の髪。耳はエルフのように尖り浅黒い肌は岩でできている。しかし、その異様な風貌にかかわらず、その整った目鼻立ちは一種の美しささえ示している。彼の立ち振る舞いは、細い抜き身の刃を思わせるようで、腕の立つものが見れば、すぐに彼が一流のものであることがわかるだろう。
「久しぶりだが、ちょっと頼みたいことがあってな」
別れた頃から少しも変わっていない、キメラの青年は少々あせっているように見えた。
「はぁ、私にできることでしたら。ですが、ゼルガディスさん。せっかくお会いできたんですからお茶でも飲みませんか?ヴァルのことも紹介したいですし・・…」
フィリアがそう言うと、今まで少々放心状態だったヴァルがてってっと走って来て、彼女のスカートを握ると、恥ずかしそうにゼルガディスを見た。それでも、瞳に走る好奇心の色は隠せずに彼を見上げている。
「あらあら、ヴァルもあなたのことが気になっているようね」
くすりと笑うと、ヴァルの手を引きながらゼルガディスを奥の、私室へと案内する。その後を、当然のようについていこうとしたグラボスとジラスだが、にっこり笑顔で振り返ったフィリアに押しとどめられた。
「あなた達は壊れた扉と床の修理。それに、途中になってる店の掃除をやっておいてもらいます」
「そ、そんな!床と扉は姐さんが……」
「………………何か文句でも?」
一オクターブ低くなった声が、二人の反論を封じ込めてしまった。
「…・・なんでもないっす、はい(号泣)
omake
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by絹糸様
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赤い狐に緑の獣人
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