2009年12月。江口は焦っていました。

〜江口とパンドーロの72時間〜


世間ではこれを、『バターと卵が分離した状態』と呼びます。


 1年ぶりのごぶさたでした。皆様お元気ですか。あ、夏にゴーヤケーキやったから、半年ぶりって事か。
 ともあれ、今年のクリスマスも江口が立ち上がりましたよ。
 年に1度の企画なんて、よくもまあ気の長い話を続けられるものですよ。

 さて、今年は『パンドーロ』にチャレンジしたいと思います。
 パンドーロとは何でしょう? 困ったときのウィキペディア。

パンドーロ (伊: Pandoro) は、イタリアのヴェローナの銘菓である。
(中略)
パネットーネと共にクリスマス特有の菓子の一つである。
生地は軟らかく、玉子由来の黄金色で、バニラの香りである。形状は先端のない円錐形で星型にえぐれていて、通常は8つの頂点がある。
材料は、小麦粉、砂糖、卵、バター、カカオバター、酵母である。

 要するに、イタリアのクリスマスケーキですね。具のないパネットーネと考えてもいいでしょうか。乱暴な話でしょうか。
 詳しい作り方ですが。21世紀はインターネットの時代、ちょっと調べて手に入らない情報なんて無いでしょう。

 ‥‥ありませんー。
 パンドーロのレシピが見つかりませんーー。
 え、ちょっと待って。パンドーロって、ほんとうにイタリアのクリスマスに登場してるんですか?

 厳密に言えば、googleの力で当然見つかります。
 最初に見つかったのが、辻調グループ校のサイト
 何でか、トップページとレシピのページが繋がっておりません。コラムのバックナンバーだから消されたのでしょうか。とにかく、レシピはこちら

 ‥‥本格的すぎますー。
 材料を揃えている画像があるのですが、その卵は何個ですか? 見えているだけでも20個ちかくあると思うんですが。
 あと、機械を使うことを前提とされていますね。パンドーロは「マンマの手作りケーキ」という道を閉ざしているようです。

 いやいや、もうちょっと簡単なのをお願いします。
 ほら、パンやケーキは、そりゃあプロが作った方がおいしいんだろうけど、でも家庭用オーブンで作れるレシピだってあるじゃない。
 その流れで見つけたのが、ママの手作りパン屋さんでの取り扱い商品。グランマドレ

 なんぞコレ。
 パネトーネミックス、なのでしょうね。やっぱりパンドーロは具なしパネットーネで正解なんですね。
 しかし、この謎のグランマドレだけでパンドーロが作れる、というわけではないようだ。
 グランマドレを入れることによって、パンドーロ独特の発酵風味が出てくるようである。

 つまり、辻調のレシピで登場する、長時間発酵を必要とした発酵種、これの代用に出来るのがグランマドレと解釈すればいいだろう。

 以上のことをふまえまして、江口の選んだ方法は。

 辻調レシピを参考に発酵種を作り、ママパン屋さんのレシピを参考に分量を決める。
 それでは参りましょう。

 【材料】

(発酵液)

(発酵種)

(前日準備)

(バターシュガー)

(本生地)

 ママパン屋のレシピが、全てパーセント表示でして。
 しかも、どれを100%としてのパーセント表示なのかも分からないし。全部足したら100越えちゃうよ。
 なのでとりあえず、卵1個の重さを量ってみました。Lサイズで約55g、キリよく50gということにする。
 砂糖と卵はどちらも15%と指示が。なので砂糖は卵と同量に。50g。
 バターは30%です。30は15の倍ですね。なので50gの倍量。100g。

 というふうに、細かく計算して割り出そうとしたけど、なんかもうワケわからなくなった。
 なので適当。
 いいんだよ、わしらは料理研究家じゃないんだ。素人なんだ。開き直ってみたよ。気持ちいいね。

 はい、材料は揃え終えましたか?
 では、早速作ってみましょう。

 

【作り方@】

    1. 発酵液を作る。
      適当な容器に、ヨーグルトと水とはちみつを入れ、よく混ぜる。
    2. あったかいところで時々混ぜながら72時間放置。

江口は手元にあった適当な瓶に入れて、カイロを当ててタオルでくるんでました。
しかし、カイロごときでは乳酸菌の求める温度までには上がらず、辻調の説明にあるような発泡状態にはなりませんでした。
匂いを嗅ぎます。3日間放置した水道水混入ヨーグルト。少なくとも腐っている気配はありません。

こんなときはなんて言うか知ってますか?

気にするな!

  

【作り方A】

  1. 発酵種を作る。
    小麦粉と同量の発酵液を混ぜ合わせ、冷蔵庫で一晩寝かせる。
  2. (前日準備)にある材料を混ぜ合わせ、冷蔵庫で一晩寝かせる。

この行程の意味が分かりません。
いや、小麦粉の方はまだ分かります。小麦粉って、練って一晩置くとそれなりに発酵して生地が変質する。
でもバターは? 卵とバターをすりあわせたモノを一晩置いたからって何になるの?

‥‥結果、何も変わりませんでした。
なのでこの行程は省いていいと思います。 

【作り方B】

  1. バターシュガーを作る。
    室温に戻して柔らかくしたバターと、砂糖をすり混ぜ、クリーム状になったら溶き卵、はちみつを少量ずつ加えて分離しないようによく混ぜる。
    バニラエッセンスを加えて香り付けをする。
  2. 本生地を作る。
    材料をすべて合わせ、力をいれて、生地が滑らかになるまで15分ほど練る。
  3. 本生地に、(1)のバターシュガーを少しずつ加えてよく捏ねる。

だって、辻調もママパン屋も、専用の捏ね機械使ってんだもん。反則だよ。
我々、家庭人は、人力で捏ねるしかないじゃん。
ハンドミキサーでこんなもの捏ねようとしたら、絶対モーター焼ける。

そんなわけでコネコネするのですが。

‥‥生地がめっさ硬いです。卵白の水分量だけでは仕方のないことでしょうか。
捏ねやすいっちゃ、捏ねやすいのですが。

果たして、これをバターと合わせるなどということは可能なのでしょうか?

 あとそうそう、前日準備の卵+バター。バターシュガーを作るときに一緒に放り込んだ。そして冒頭の、分離したバター。
 しかし江口は、過去になんどかお菓子を作ったが、この卵+バターを分離させずに混ぜられたことがない。慌てすぎるのか。もっと少しずつ卵を加えなければいけないのか。

 で、本題。
 捏ね終えた小麦粉生地に、バターを後から足していく。
 本当にコレが混ざるのでしょうか?

 江口、過去に似たようなことをやったことがあります。
 パン生地を捏ねていてね。
 ある程度まとまってから、なんかまだ水気が足りなかったので、あとから水を足した。
 混ざらないんですよ。
 捏ねまとまっていた生地が、後から加えられた水のせいで分離していく、そんな感じです。

 専用のミキサーで力強く捏ねれば話は違うのかも知れませんが、我々の持っている装置は人力です。てゆうか手です。

結果。

もろもろ。

小麦粉生地が分離し、顆粒状になって残ります。人力ではそれ以上小さくなりません。

最終的には、泡立て器を持ち出して、とにかく練って、それっぽくしてみた。

まあ、ケーキ生地と言い張ってみることも不可能じゃない、そんなレベルに。

 はい、あとはこの生地を、温かいところでまずは1時間ぐらい一次発酵。
 生地が倍ぐらいに膨らんだら、型に移し替えて20分ぐらい二次発酵。

 180度のオーブンで、30分〜40分ぐらい焼いたら出来上がりー。

 キレイに焼けましたー。
 パンドーロ型なんて立派なモノはないので、紙のシフォン型です。
 まあ、それなりにいい膨らみ加減、いい匂い、いい焼き色。
 少なくとも、菓子が出来上がったみたいです。
 あとはこれを天地を返してから冷まして、と‥‥。

 めろん。

 めろん?

あーーーーー。

底がこびりついたまま落ちたーーーー。

めろん、ってメゲたーーーーーー。

底がメゲたーーーーーーー。

 じゃあしょうがないな、メゲた底の部分は食べちゃおう。
 というわけで焼きたてを試食。

 カリカリしてんまい。
 甘さの加減はちょうどいいぐらいだ。
 ただ、このカリカリ具合は、要するに油分の多さを証明するものでもあるのよな。

 *****翌日*****

 はい、一晩が経過しました。
 焼きたてほかほかパンドーロも、すっかり冷めました。
 ではいよいよ、正しい姿で食べることにしましょう。

 正しい姿とは?

 答えは粉砂糖。

 粉砂糖をまぶして初めて、パンドーロを名乗れる最終形態になれるのですよ!

 できあがりーー。

  上に乗ってるのは、100円ショップで買ってきたチョコレートの飾り。

 では、切ってみましょう。

断面図。
なんて高密度。このまま建材に出来るのではないかとか、そんなことを思えます。
右図は、切り分けて皿に盛ったモノ。
色気も何もありません。

 そして、味は。
 ‥‥しっとりバターケーキ。ただし、食べてる端からモロモロ崩れていきます。

 作ってみての感想。

 だったら最初っからバターケーキ焼けよ。

 えっとね。おいしいっちゃ、おいしいよ。
 でも、だからって来年も作りたい味かというと、そうでもない。
 作り慣れたバターケーキでも焼いた方が、何倍も美味しいと思う。

 身も蓋もないことを平気で言うよ。

 

 

*****後日談*****

 まぶした粉砂糖は、どんどん湿気ていきます。
 砂糖シロップをしみこませたバターケーキのようになります。

 要するに、甘さ倍増。
 越冬にどうぞ。

*************

 

 

 予告。

 来年は、初心に帰って、ブッシュ・ド・ノエルの予定。

 クリームオブタータ(メレンゲ安定剤)の導入と共に。

 

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