勉強はつらいなあ。
−勉強ちゃうし!
『テストにアンキパン』 いつもの事ながら普段の勉強してないツケが回って明日のテストに困るのび太。「これからはちゃんと勉強するから」という全く信用できない誓いを心優しいドラちゃんは信じてやる。書いてあることをパンに写し取り、それを食べれば写したことを全部覚えてしまうアンキパン。でも出しちゃえば忘れちゃう欠点もあり。
のび太って本当に勉強しないなあ。 おなじみの『テストに備えて楽して頭をよくしよう』なお話。つまりのび太くんは(今更言うことでもないが)勉強が出来ません。その理由はどこにあるんでしょう。まず集中力がない。授業中もしょっちゅう寝てるし、ぼーっとしてる。家に帰ったらすぐ昼寝するので宿題もしない。つまり、勉強のクセがついていない子供なので、だから勉強が苦手。と同時に、勉強というものを軽んじている様子がある。 いざ勉強しようとノートを開くと肝心のページが破れてる。「鼻をかむとき、ちり紙がなくて」って、ドラちゃんじゃないけど「何やってんだ!」。たぶんのび太は、教科書を足で踏んでも平気な人間だと思う。一応仮にも授業中に習ったことを書いて、それを記したノートであり、いずれはそこのページがテストに出るだろうなのに、それで鼻をかむ。便所にでもいけや。 というふうに、物事の重要さを理解しきれていない、ここがだらしないのび太の性格全ての原因ではないかと。 さて、問題のアンキパン。食べて覚える道具です。なのでのび太くんはこの先勉強するために食べなければならない。なのにしずちゃんちで草餅を鱈腹食べている。なんて計画性のない! そしてドラちゃんに無理矢理パンを押し込まれる。のび太くん、顔面蒼白になるほど苦しんでいる。翌日には腹をこわして便所に籠もるほどの苦労に見舞われている。それらを指して「勉強は辛いなぁ」って。辛いのはあなたの計画性の無さで、食べれば覚えるなんて勉強法のどこに辛さがあるというのだ。 しかし無計画なのはドラちゃんも一緒で。食べても消化して出しちゃえば忘れる道具、なんで前日から喰わせてるんだろう。一日過ぎたら消化されるだろうに。最初から当日の朝、食べればよかったのに。
【ひみつ道具】 アンキパン/学校を吹き飛ばすせん風機/動物ライト
《TOP↑》
*
きみだけをすきになるように調節してあるんだ。
−調節‥‥。
『ロボ子が愛してる』 しずちゃんにこれ以上ないほど邪険に扱われて、しかし気にしてないそぶりを見せるのび太に同情して、ドラちゃんは未来の世界からトモダチロボットをレンタルしてくる。プログラミングされた友情に有頂天になり、アッという間に傷ついたプライドもいやされるのび太。現代人の人間関係を描いた問題作。
未来の世界って、こんなのレンタルしてるんだな。ガールフレンドロボット。無条件でオーナーラブラブ。きっと22世紀にはメイドロボなんかもあるんだろうな。 「君だけを好きになるようにプログラミング」。なんて虚しい。それでいいのか、のび太。人間の女に振られた腹いせに、そんな機械人形相手で満足していいのか、本当に? だけど、そんなことを言えばドラえもんだって問題なわけで。セワシがオーナーになった時点で、当然オーナー登録みたいなものをしているだろう。ロボットである以上、意志は人工的に付与されるしかないのだから。だからこそドラちゃんは『のび太のドラえもん』になり得るわけで、『野比家のロボット』ではないわけだ。 それにも関わらずロボ子はいかにも「のび太を全面的に好き」を全ての行動原理にされているように見えるのに対し、ドラちゃんはどこまでも自由意志を持っているように見える。自由意志を持つロボット。ドラちゃんはロボ子(もしくはトモダチロボットシリーズ)を「いいロボット」と表現しているが、ドラちゃんの方が絶対高性能だ。ドラちゃんが化けたガールフレンドロボットをのび太は気味悪がっているが、そっちの方がいいロボットなんだよ? あ、でもドラちゃんが「トモダチになって」というのがとても嘘臭い。だからこそのび太は拒否反応を示したのか。強制友情の虚しさに気づいたのか。わずか12頁で大変な成長だ、のび太。
【ひみつ道具】 タイムマシン
《TOP↑》
*
七日前につくったごはんだったので、こわくてこわくて。
−ママ、ナイス。
『怪談ランプ』 みんなで集まって怪談をしようといういつものメンバー。でも怖い話なんて知らないのび太はママに尋ねたりしてとりあえずみんなを怖がらせようと努力はする。結局は道具に頼り、それでみんな怖がったが、べつに話の内容に怖がったわけではない。
『ドラえもん』の登場人物のセリフをよく見ていると、どうみてもそのキャラのセリフとは思えないセリフが時々出てくる。誤植とかそういった意味ではなく、そこにF先生の人格とか小ネタとかが見え隠れするとき。この時のママの、のび太に教えた怖い話がまさにそれだ。これ、ぜったいママの脳味噌から出た話じゃない、F先生の持ちネタだ。 「おばあさんが山の中で一人で住んでいたけれど、重い病気で寝込んでしまい、7日目にとうとう‥‥治ったのよ。治って7日ぶりにゴハンを食べたんだけど、7日前のゴハンだったので怖くて怖くて」。違う! これってママじゃない! じゃあ他の誰がこんな小ネタを言ったらしっくりくるかと考えるが‥‥『ドラえもん』の登場人物の中でこんなこという人物はいない! だれ? あなたは誰?? 正直、こんな小ネタがなくても充分ストーリーは展開するし、コマ割りだって難しくなかっただろう、でもこんな場面が挿入されている。しかもなかなかステキなジョークだ、子供向け漫画には勿体ないほどの。F先生、油断ならなし。子ども相手に全力投球。
【ひみつ道具】 怪談ランプ
《TOP↑》
*
いっぺん、あんなふうにやってみたいよ。
−叶わぬ夢。
『ゆめふうりん』 現実世界ではいばれないので、みんなが寝静まった状態で催眠をかけて「のび太をガキ大将に」な夢を実現させる。しかし、催眠状態でも現実世界に変わりなく。のび太は現実の厳しさを再認識させられるのだった。
みんなを集めて威張り散らす、なるほど確かに素晴らしい状態。しかしそこまでくるには相当の努力が必要であって。ジャイアンだって腕だけで一帯を治めた訳じゃなく。単なる乱暴者なら皆からハブにされて、誰も近寄らなくなるはず。「何して遊ぼうか」「賛成賛成」なんて和やかなことになんてなったりしない。けれど、ジャイアンはみんなを集めて遊ぼうとしていて、みんなもそれに付き合おうとしている。ジャイアンの努力を認めてやろう。 これがのび太ならどうなるか。まずそこまでみんなを抑える説得力がない。腕力でも知力でもいい、みんながのび太に付き従うのも仕方ないと思ってしまう理由がどこにも見あたらない。そりゃあ夢の中でもバカにされるって。 しかしのび太も身の程知らずで。自分のどこにそんな自信があって「みんなの頂点に立つ」と思えるんだろう。いや、しかしのび太は将来的に自分で事業を興せる人間だから、その程度の自信は持って当たり前なのかも。 ところで、今の子どもに『ガキ大将』って通じるのかなぁ。もう死語だよな、『ガキ大将』。もう存在もないのかしら。絶滅種なのかしら。乱暴者、ってイメージあるけど、つまり集団の中のリーダー的存在。集団の中で抜きんでて秀でた存在って、『出る杭は打たれる』現代では、もう居なくなるべき存在なのかなぁ。さみしいなあ、国民総中流。
【ひみつ道具】 ゆめふうりん/おねしょじゃ口
《TOP↑》
*
ほんとの子なら、あんなひどいおこられかたしないよ。
−自業自得だってのに。
『ぼくの生まれた日』 宿題を堂々とサボってママとパパダブルでこっぴどく怒られたのび太。「こんなひどい怒られ方するなんて、本当の子どもじゃないんだ」と嘆く。なのでタイムマシンで生まれた日に戻って、本当の子どもかどうか確かめることに。
実はこっそり、名作ですこの話。今年の映画にもなりましたね(あっちは面白くなかったけど)。パパとママに初めての子ども、それが生まれた喜びが全面に溢れております。おおはしゃぎなパパ、ご先祖さまに報告するおばあちゃん、夢いっぱいなママ。扉絵からして、パパはのびちゃんを放り上げたりしている。嬉しかったんだなぁ、よっぽど。 なのにのびちゃん! そんな子ども思いの両親の心中などまったく無視して、自分の悪いのを棚に上げて「自分はこの家の子どもじゃない」って。両親から一度に起こられるなんて、よっぽど悪いコトしたときしかないっていうのに、そしてまさに今がその時だって言うのに、反省しないんだから、まったくもー。 と、大人視点から見たらのび太のダメッぷりは明白なんだが、もしこれが子ども視点だったらどうだろう。「信用してよ」「じゃあ好きなようになさい」「遊んでこよう」→怒られる。この時、子どもはどっちの立場に立つだろうか。「好きなようにしろって言ったからしたのに怒られるなんて!」とやっぱり思うんだろうか。 「子どものためを思って叱る」、子供時代ってこの意味が分からなかったけど、やっぱり大人になると分かってくる。子どもを持ったわけでもないけど、ダメ子どもの欠点がよく見えるぶん、親の説教の正当性が分かってくる。 そう思うと、子ども・親、両方の視点から一つの作品になってる『ドラえもん』、あなどりがたし。
【ひみつ道具】 タイムマシン
《TOP↑》
*
だからぼく、いやだといったんだ。のび太くんがどうしてもというから‥‥。
−はっきりせんか、玉夫!
『正直太郎』 気が弱くて彼女にはっきりとモノが言えない玉夫おじさん。大人の話なのにのび太達は首を突っ込んで、おじさんと彼女の縁結びをしようとする。しかし玉夫も小学生のバックアップを頼りにしたり、それが頼りにならないと分かると責任転嫁したりと。
フィクションの世界では「この男のどこがええねん」「なんでこんな男がもてんねん」と、思わず関西弁で突っ込みたくなるようなシチュエーションが多々ある。不思議なことに、これが女ではあまり見られない。いや、男の視線からみると違うかも知れないけれど。ともあれ、玉夫おじさんはいい男と正反対の座標におわすお方でございます。丸い顔と体格、つまりデブだろう。ぺったり分けた7:3頭、妙なワックスつけてそうだ。しどろもどろで軟弱。「あの人は僕のこと嫌いなんだ」なんてネガティヴ思考。彼女はそばにいて、いらついてばっかりだ、なのに玉夫は「理由が分からない」。分かりまくるやないけ! と、これも関西弁で突っ込んでおく。 可能性としては彼女が同僚で、職場で誠実に働く姿をみているのかもしれないが、後から出てくるエピソードで玉夫はぱっとしない車の営業マンだ。そんな玉夫に、どこに「大好きなの」と言わせる要素があるのか。ぜひ教えて欲しい。 しかしそんな玉夫も、一旦弾みがつくとしゃべるしゃべる。人間、自信ってすごい。そして彼女もとりあえず和やかに、人間には言葉が大切。黙っていたって何も通じないって。テレパシストじゃないんだから。
【ひみつ道具】 正直太郎
《TOP↑》
*
おわりの場面を、どうしようかとこまってるの。
−考えとけよ。
『しずちゃんのはごろも』 仲間の劇でコンクールをすることになって、しずちゃんと二人で『天人の羽衣』をやることになったのび太くん。羽衣片手に練習をするが、終わりの場面(天人が空へ買っていく場面)をどうしようかと思案、そこでドラえもんがすてき道具を貸してくれる。
のび太の学校って、なんでこう芝居をしょっちゅうするかなあ。盛んなのか、東京のあの区域は。学園祭もあるらしいし(1巻『一生に一度は100点を‥‥』参照)。それとも先生の趣味か? いや、「仲間の劇」と言ってるので、友達同士でやってるだけかもしれない。そっちのほうが演劇熱濃そうだけど。 しかし、ラストシーンの演出が難しそうなものを選ぶとは。プロなら、もしくはちゃんとした劇場ならワイヤーで天井から吊すんだろうけど、小学生の芝居では難しいだろう。そうと分かっていながら敢えてこの脚本を選ぶとは。チャレンジャーなふたり。「終わりをどうしようかと困ってる」って、そこをクリアしないまま練習してるんじゃないよ。二人だけで出来る芝居なら幾らでもあるだろうに。 この話。低学年向けの短い話なのに、なんだかツッコミどころがいっぱいある。なぜ君達は演劇を? しずちゃんが視界から消えて空高く飛んでいったんだから、もっと心配しろよ二人。持ち主が目の前にいるのに持って帰ろうとするなよ、おっさん。きこり・藁葺き家・もんぺ・いったいそこの時代はいつなんだ? 浮く赤ちゃん。浮く赤ちゃん!! と、なんだか文脈もめちゃくちゃ。こんな話なのにインパクトありあり。江口の思考回路も破壊する。油断ならない。
【ひみつ道具】 フワフワオビ/タケコプター
《TOP↑》
*
ちょっとまゆをよせて‥‥、そうそう重みがでました。 口もとはきりりと、男性的に。 かみは、むぞうさな感じにみだします。 目は、たがいちがいに。
−半分は正しい。
『うそつきかがみ』 かがみに移った人は誰でも美しい、といいはる嘘つき鏡。それだけならまだしも、とんちんかんなことを言ってますます混乱させて楽しむ根性悪い鏡。でも壊されることには敏感で、ちょっと脅迫されたら信条を変える根性なしだったり。
眉を寄せる、口もとを引き締める。表情としては悪くない、ちょっとニヒルな感じだと思えば。髪を無造作に乱す。当時はさておき、今では普通にある無造作ヘア。全然悪くない。目を互い違いに。ま、これは無理なのでなかったことにして。ああそれなのに。のび太イヤーとのび太脳を通過すれば、こんなとんちんかんな顔に! いやさ、最後の項目の破壊力がすごいんだ。目を互い違いに! どんな格好良くても、互い違いでもうアウト。嘘つき鏡、容赦なし。 この、一見言ってることがもっともらしいのがミソだ。上手な嘘のつき方のポイントは、「一つだけ嘘を付き、残りは本当のことを言う」だ。全部を嘘で固めると一カ所崩れただけで瓦解する、けれど殆どが事実であればその危険が少ない。そう、鏡のトークはまさにこれ。目元口もとの表情の的確なポイント。流行先取りのヘアスタイル。そりゃあのび太も信じて従うさ。でもそのオチ。いや、オチじゃない。しかし一セリフ一コマで4コマ漫画だと思えば、立派なオチだ。「目は、たがいちがいに」。なんだかすべてを持って行っちゃうセリフだ。そりゃあのび太も頑張って筋肉動かすっての。 嘘つき鏡の怖ろしいところは、とんちんかんな発言はこの「目はたがいちがいに」だけなところだ。あとは普通の褒め言葉しか言ってない。なんて高性能な機械。発明者は心理学者か?
【ひみつ道具】 うそつきかがみ/マジック・セメント/タケコプター
《TOP↑》
*
見なさい。かねがね買いかえたいと思ってたカメラのカタログだ。
−そんなものより、洗濯機を!
『タイムふろしき』 どんな古いものでも、このふろしきを被せれば新しいときの状態に元通り(ただし、裏表逆に使うと古くなっちゃうので要注意!)。画面がブレていたテレビも買いたての新品に、調子の悪い洗濯機だってぐんぐん動いちゃう。卵はヒヨコに孵り、新車はポンコツ、ハゲ親父はふさふさふさりん。スネちゃまのママもこれにはうっとり。
テレビ、冷蔵庫、カメラ。家の中にあるもので、調子の悪いものがこれだけある。このなかで、まず買い換えをしなければいけないのは何か? 生活必需品であることから考えれば、まず洗濯機だ。いやいや、社会情勢をしらなくてはいけないんだから、テレビが僕には必要なんだというご家族の方は、テレビが先でもいいかもしれません。洗濯なんて、手洗いででもできますから。というわけで、どっちにしても、カメラは一番後回しだ。カメラマンでもあるまいし、どっかに旅行に行く予定があるわけでもあるまいし。 のび助パパは趣味人だ。カメラやらゴルフやら音楽鑑賞やら、なんだか履歴書に立派に書ける趣味をお持ちである。そして趣味人の悪いところは、生活よりも趣味を優先させるところだ。のび助も例に漏れず。パパ、あなたのシャツが綺麗になることよりも、カメラを優先させたいのか。パパ、時事ネタを仕入れることよりも、カメラを優先させたいのか。洗濯機がなかったら生活が困るけど、カメラが無くても何一つ野比家は困らない。カメラはパパの小遣いから買え! 家計をやりくりして買わなければいけないのはいまは洗濯機だ! というわけでのびちゃん、テレビはもう少し我慢しろ。殴るコツを覚えておけ。
【ひみつ道具】 タイムふろしき
《TOP↑》
*
アハハ、おどろいたかい。会社の記念パーティーがあるんで、そのよきょうにれんしゅうしてるんだ。
−どんな余興を?
『かならず当たる手相セット』 調子のいい手相占いで女の子のご機嫌をとろうとしているスネ夫に反発して、手相占いをバカにするのび太。しかしスネ夫の逆襲にあい「将来はホームレス」と予言される。それを暗示するかのようにホームレス姿のパパがのび太の前に! 危ない、のび太フューチャー!
記念パーティーに乞食の余興かぁ。いいのかなぁ、パパ。出世に響いたりしないのかなぁ。しかし、こんな格好を嬉しそうにしているパパ。会社ではお調子者? 「野比くん、ひとつ愉快な出し物をたのむよ」とか言われてるのかなぁ。で、パパも調子に乗って「よーし、やっちゃうぞー」って真に受けて張り切ってるのかなぁ。全部憶測だけど。でも乗せられやすいのはあたってると思う。 さておき。 ドラえもんの道具には、「それって意味が違うだろう」というものが数多く出てくる。これもそう。いくら手相にどんなこと書いても、即効性があるわけでもなかろうに。『なぐられ相』『ぶつかり相』『ナイフで突き刺される相』ってどんなんだ、それ。「掌のここに皺のある人は誰かにナイフで刺されます」。そんな占いが! って既に占いじゃない。 というふうに、目的を失ってしまったものが数多い。そもそも手相って皺だ、墨で書くものでも無いだろうに。話の展開が強引だ、この回特に。それを考えると、パパがのび太の未来を暗示して乞食の格好をしようと全然平気だ。朱に交われば赤くなる。違うか。
【ひみつ道具】 かならず当たる手相セット/タイムマシン
《TOP↑》
*
もし、つかまらなかったら、目でピーナッツをかむか。
−そんなことをされても‥‥。
『オオカミ一家』 山神とうげでオオカミを見たという新聞記事。調子に乗って「自分も見つけよう」だそうだ。まあなんというか、のび太ってば調子に乗りやすいと言うか、後先考えないというか。そこはそれ、相手は子供なんだから、あまりツッコまないようにしよう。
のび太とジャイアン達は、ときどき「できなかったら○○をやれ」という約束をする。げんこつ30発かけたり、鼻でスパゲッティを食べたり。げんこつはまだいい。それよりも、目でピーナッツ! どこからそんな発想が? 想像してみて下さい。あなたが、誰かと賭をすることになりました。相手はどう考えても不利です。この賭はあなたが必ず勝つだろうし、勝った報酬として、あなたが相手に何かを要求できます。‥‥さて、何を要求しますか? 大人のアタマで考えられることはせいぜい、「何かおごれ」「裸踊りしろ」「3べん回ってワンといえ」ぐらいではないだろうか。「目でピーナッツをかめ」。こんな、誰も得しないようなことをどうしてこの少年Aはスラリと出てきたのか。子供の想像力はおそろしい。そしてもっとおそろしいのは、この話を書いているのが、F先生という大人だということだ。 ついでにこの話についてもう一つツッコみどころ。 絶滅寸前のオオカミ一家を守ろうと、ハンター達をごまかすのび太とドラえもん。 「このへんは、すみずみまでさがしたよ」「えっ、ほんと?」‥‥いきなり子供にこんなことを言われて信じる大人。これまでの盛り上がりがストンと消える妙なワンシーン。大人と子供のバランスの不安定さが妙な一話でございました。
【ひみつ道具】 タケコプター/月光とう/麻酔銃
《TOP↑》
*
顔をあわせなくてすむぞ!!
−いや、会うって。
『N・Sワッペン』 磁石の同じ極同士は反発し、違う極同士はくっつくという特性を発見したジャイアン。だけどこともあろうにのび太に「幼稚園の子でも知ってる、遅れてるな」と、そう、あののび太にバカにされたために、烈火の如く怒り狂うジャイアン。のび太をぶん殴るために執念を燃やすが。
そんなジャイアンから逃れるために、ドラえもんに泣きつくのび太。まあ、いつものことだ。しかし、顔を会わせないようにと言っても、同じ街に住んで同じ学校に通っているんだ。どうしたって、顔を会わせないわけには行かない。だけど。ドラえもんが考えた結果、取り出された道具は『N・Sワッペン』。 でも、あうんだろ? 『顔を会わせない→N・Sワッペン』。違うだろうよ。『近付かせない→〜』なら分かるが。顔を会わせないと言うんだから、透明人間ぐらいにしないと話がおかしいだろう。そして結局、ワッペンを貼ったのび太はジャイアンに会いに行ってるし。 そしてジャイアン。とにかくなんとしてでものび太をブチ殴りたいらしい。投げ縄まで利用してのび太に執着。その創意工夫の能力には脱帽だ。言ってしまえば、磁石の性質発見だって、創意工夫の好奇心から発見に繋がったんだろう。いずれ君は、磁力に負けない力を発見するはずだ。そしていつかは、N・Sワッペンの力に逆らってのび太に接近し、思い切り恨みを晴らせるはずだ。江口はそう信じている。
【ひみつ道具】 N・Sワッペン
《TOP↑》
*
うち←→かいしゃ 49年12月25日から いつまでも つかえます
−いつまでもいつまでも
『地下鉄をつくっちゃえ』 毎日会社に行くのに、満員電車に揺られているパパに同情したのび太。めずらしく親孝行をしようと、思い切って会社までの地下鉄を掘ろうと計画。そして出来上がったその電車のために定期券を発行。自らサンタクロースになって枕元に置くという、なんとも粋なことを。男だね、のび太。
会社まで直通の、自分専用の電車。なんてすてき。のび太、パパへのプレゼントとして、それはきっと最高級の選択肢。しかも、それの渡し方が、自らサンタで枕元。当然、その定期券は手作りだろう。『有効期限なし』じゃなくて『いつまでもつかえます』。この表現の永遠性。永遠にこの大人のロマンが続くのだ。 こどもの語る言葉は、それだけで懐かしさがある。やっぱり、大人はかつてその言葉を使っていた子供自身だったからか。子供は語彙の未熟さ故に、そんな単語しか選べないが、大人はそこに含まれる、子供時代の懐古を伴って利用することができる。一つの単語に対して含まれる意味は二重。意味の密度が高いと思えば、大人の言葉が味気ないと思ってしまうのもしかたないか。
【ひみつ道具】 穴ほり機/地下鉄
《TOP↑》
*
だっこくして、精米して、むしあげて、ついて、おもちになって出てくるんだ。
−脱穀から?
『タタミのたんぼ』 餅の数が二人で割り切れないとして大喧嘩ののび太とドラえもん。餅がうんとあれば喧嘩にならないという、分かり易い動機で餅作りを始める。しかし肝心の餅米が無く、そこから始めなくては行けないことに。餅への道のりは遠い。
そうか、脱穀から必要なのか。 ということは、未来の大晦日は餅つきではなく田植えが年越し行事なのかなぁ。町内会集まって、大田植え大会。この年の瀬の忙しいときに。 餅つき機、メーカーはわざわざ、脱穀機能まで備え付けなくては行けないのか。そんな複合機能では、機械の値段は高いんじゃないか? などと、アホなことを考えてしまったが。 それよりも、この話を読む度江口は餅がおいしそうと思う。実はドラえもん作品の中で、餅の登場頻度はかなり高い。記念すべき第一回も、正月でドラえもんは餅を食べている(今気が付いたが、ドラのドラ焼き好きはどこから始まったんだろう)。そりゃあ、餅のためなら喧嘩にもなろうと思わせるほどに、二人は餅好きキャラクターが確立している。関係ないけど、畳の上に転がり落ちた餅を食べるのはどうかと思う。 ついでに言うなら、この2時間でできる田植えセット。田植えから刈り入れまでこんな短時間で。いいなあ。やりたいなあと思わせる素敵な機械。なんだかすごく羨ましい話。江口の中で印象度が高いのは、やっぱりこれが原因なんだな。
【ひみつ道具】 もちせいぞうマシン/しゅみの日曜農業セット
《TOP↑》
*
かぜでもひいて、病院へ行こうと思ったのに。 あいにく、じょうぶすぎて‥‥。
−それはきっとバカだから。
『このかぜ うつします』 大事な会議があるのに風邪をひいてたいへんなパパ。親思いののび太くんはなんとかその風邪を治してやろうと、ドラえもんの道具でとりあえず自分にうつす。それをまた、憎らしい誰かにうつしてやろうと街を徘徊するが、はてさていったい誰にうつせばよいのやら。
まあ、オチとしては『看護婦さんに一目惚れした青年が「風邪をひいてそれを口実に病院へ行ってまたその彼女に会おう」という下心で、いざ風邪をひかんと素っ裸で街を歩いていた、その彼にうつしてめでたしめでたし』なのであるが。 バカだ、この男。 まあ、百歩譲ってこれを口実に看護婦さんと接近できたとしよう。 そして二人のデート中の会話。 「君に会うために風邪をひこうと、裸で寒空の下、歩き回ってたんだ」 なんて言って見ろ。 「バカだ、この男」の一言で終わるぞ。自分の彼氏が、半裸で街を歩いていて、それをみんなに目撃されているような男だったら、殴るね。「内気」とか「いじらしい」とか、微塵も感じさせない。で、またこの男が見るからにそんないじらしさと正反対の方向にいるような外見だから、F先生も罪なことをする。よく見ると玉夫おじさんと似たタイプだ。身近にいたのかもしれない、こんな友人が。 バカは風邪をひかない、もしかしたらこの話から生まれたのかもしれない。嘘だけど。
【ひみつ道具】 風邪をうつす機械
《TOP↑》
*
このボタンだったかな?
−手探りかい。
『勉強べやの大なだれ』 スキーが滑れないのび太くん。しかし友人達の前で転ぶのは格好が悪い。明日は雪が降って、どうしてもみんなと一緒にスキーをしなくてはならない状況に。付け焼き刃はいつものことだが、とりあえず練習をしなくては、と、部屋の中で出来る練習道具をドラえもんに出して貰う。
立体映像って便利なんだろうか。 ドラえもんの道具にはよく、道具の周辺に映像を映しだして気分を出す、というものがある、これもその一つ。そうなると、道具そのものまでが映像の下に隠れてしまう。だから、どうしてもその後の動作は手探りになってしまう。未来の道具なのに手探りか! 「ベルトはその辺だ」「このボタンだったかな?」けっこうアバウト。その昔、ファジー機能といって、1か0かのデジタルじゃなくてもっと融通が利くようなものが売り文句になっていた時代があったが、もしかしてそれが今も続いていたら、未来の道具はこんなふうにアバウトになっていたのだろうか。 いや、おざしきゲレンデじゃなくて、ドラえもんがね。 だってさ、普通のロボットが「この辺で」とか、適当な動作をするかっての。「出口はどこだ」って、あなたも一応未来の道具なら、現在の座標ぐらい把握できるでしょうに。もしかしたら、パニックによるバグかもしれない。ファジーロボットなのに、融通が利かないのか。なんて矛盾だらけ。 てゆうか、江口がファジーの定義を間違ってますか? よーわからん。
【ひみつ道具】 おざしきゲレンデ
《TOP↑》
*
じゅんびがいるんだ。バターとジャムを。
べんとうだね。
−違う。
『恐竜ハンター』 未来の世界で大流行、『恐竜狩り』。面白いスポーツで、掴まえた恐竜はペットにするらしい。そんなわくわくイベントに羨ましがったのび太くんが「自分もやりたい」と言い出す。準備物はジャムとバター。細胞縮小機をもって、タイムマシンに乗り、さあいよいよ恐竜ワールドへ。
バターとジャムは弁当じゃない。先に言えよドラえもん。そんな嫌そうな顔してポケットに入れられるままにしないでさ。 それらの準備が、恐竜狩りに行くためのお弁当だと信じたのび太。食パン1斤とかあるよ。あとよく分からない、箱入りのものがいくつか。そして魚とか大和煮の缶詰。どんな弁当だろう。のび太、恐竜の世界でシート広げて、大和煮の缶詰開けてパンに乗せて食べる気なのかなぁ、バターとジャム乗せて。 そして、バターとジャムを塗った人間がおいしそうなエサとなる。恐竜相手に、バターとジャムって通用するのかなぁ。たったこれだけの文章に何回言ってるんだバターとジャム。 ところで、いまでこそお約束になった「ポケットに手を入れたドラえもんが、狙いと違った道具を出してくる」って、やっぱりここが最初なんだろうか。「さいぼうしゅく小き」といいながら出てきたのは大和煮缶詰(しかし、ここで『大和煮』なのが笑えるな。なんだろう、このインパクト)。パニックになったドラえもんが必死でポケットをあさるが、次から次へと関係ないものが出てくる。そしてその整理の出来てなさが後々のトラブルを引き起こす。これまでのドラえもんに、このパターンは何回見ただろう。そしてそれを頼りに話が展開しているものがいったい幾つあるだろう。 というわけで、『お約束』誕生の記念すべき回。ということでひとつ。
【ひみつ道具】 タイムマシン/さいぼうしゅく小き
《TOP↑》
*
のびちゃん出してきて。
−自分で行けよ。
『出さない手紙の返事をもらう方法』 友人に急用があって、速達を出すようパパに頼んだママ。しかしうっかりもののパパは出すのを忘れて1ヶ月。こまったパパのために取り出したのが『返事先取りポスト』。のび太たちはこの面白い道具を使っていろいろ実験するのだった。
ママの理屈がよく分からない。 ママの言う『急用』ってなんだったんだろう。1ヶ月返事が無くても心配するが他に支障はない程度のものなのか、緊急ならなぜ電話をしなかったのか、返事が必要なら催促の電話なり手紙なり出来ただろうに。 ママってもしかして、不精者かもしれない。手紙一つ出すのにパパに頼む、のび太に頼む。いなくて仕方ないから自分で出しに行く。パパに頼むとしょっちゅう忘れられる、のび太に頼むとしょっちゅう無くす。それでも自分では動かない。自分の労力と、用件の緊急さと、他人に頼んだときのデメリットを全て秤にかけて、デメリットを彼女は選んでしまうのだ。動かざること山のごとし。ああ、だから山の神なのか。 なんか自分で、すごく笑点みたいって思った。心から悪かったと思う。反省。
【ひみつ道具】 返事先どりポスト
《TOP↑》 |