|
|
私は、県下の身体障害者施設「○○」に入所している××と申します。すでに電話で聞きおよびのことと思いますが、私は以前から自立を希望しておりました。先日「△△ホーム」の計画を新聞で知り、もしかしたらこれこそが私の長年の希望をかなえてくれる計画かもしれないと思って資料を取り寄せてみましたところ、実際とても驚き、是が非にでもと心を新たにしているところです（コピーを同封しましたのでご覧ください）。細部についてはまだ決まっていないところも多々あるようですが、ともあれ△△ホームを開設するにあたって一番重視している点が、私が熱望している生活「自分に与えられた２４時間を、自分の責任において、自分の意志で割り振りをした一日を送りたい」とぴったり一致していたからです。そのためなら私はどんな苦労だって厭わないつもりです。私はよく想い描きます。たった一人で生活している自分の姿を。私の障害は一人で生きるには少々重症かもしれません。が、やってやれないことはないと常々思っておりました。たぶん実際には、何もかも一人でやりくりするというのは、私が想像しているよりもずっと困難なことなのでしょう。一日の大半が生活を維持するための雑事に追われ、残ったわずかな時間もぐったりと疲れきって、ベッドに横になったまま浪費するだけなのかもしれません。そしてそんな日々が延々と続くだけなのかもしれないと不安でもあります。「何でこんなことをしているんだ」との疑念も頭をもたげてくるでしょう。しかし、それでもなお私は、自立を熱望しているのです。 私は今年４４歳になります。受傷した時が３３歳でしたから、本当にもう４０代も半ばになってしまったのかと、何だか他人の年齢を言っているかのような感さえあります。「では君はこの１０年、いったい何をしてきたのかね」と自問すると、ただただ他人の手を煩わせ、善意に甘えてきただけのように思えて、羞恥と焦燥がないまぜになったような気持ちでじっとしていられなくなります。実際問題４４歳という年齢はけっして若いとは言えません。しかしそんな生活にチャレンジするとしたらまだ遅くはないはずです。が、これ（△△ホーム）が最後のチャンスのように思えてしかたありません。現実に自分の障害を合わせ見ると、まったくの一人という生活は無理ですし、何より「△△ホーム」のような主旨の施設がこれからも続々と建設されるとは思えないからです。福祉の流れがそのような方向に向いて来てはいるでしょうが、次ぎの計画は何年先になるでしょうか。１０年後、あるいは２０年後？ そのころには私の意欲は薄れて、何もかもを庇護してくれる現状の施設を出る気持ちはなくなっていることでしょう。それに鋭意、緊張した、そんな生活を何歳まで持続できるかということもあります。遅れるほど一人で過ごせる時間は短くなるのですから。同じ障害で、私よりずっと重症で、年齢もすでに６０歳に手がとどかんとしている一人暮らしをしている方と懇意にしておりますが、近ごろは少々へばってきて日々を送るのが精一杯と言い出しはじめております。しかし、それでも身体が動かなくなるまでは一人暮らしを続けると頑張っており、私はその人が羨ましく、またそんな生きざまがとても美しいと思います。そういった実践を見聞きし、人に出来るのだ自分に出来ない訳がないと心を強くし、これから先何年生かしてもらえるのかわからないけれど、とにかくあと２０年くらいは何とかなるのではないかと安易に考えております。 今回のこの「△△ホーム」の計画は、私の思い描いていた生活より、あるいは贅沢かもしれません。個室、ケア付き、それより驚きなのは入居予定者に合わせた設計をするということで、被保護者の私に、そこまでしてもらうほどの資格と価値があるのだろうかと、思わずひるんでしまうほどの計画なので、もしも入居出来るようなことにでもなったら、この僥倖はどんなことがあっても維持してゆくものと思います。 さて、すみません。いささか長々とたれてしまいました。前述の通り、私は、ここ○○園を出て一人暮らしを希望しております。しかし、家賃や食費、高熱費等の生活費を考えますと、どんなに切り詰めても現在の年金ではやっていけない金額です。しかも私の傷害を考えますと（たぶん将来に渡って）生活を支えるだけの収入を自力で、長きに渡って得られるとは思えないのです。そこで生活保護を受けたいと希望しております。もし受けられるのでしたら、現年金や社会的信用などすべて無くしてもかまいません。無知ゆえに期待し、お手紙したしだいです。 もちろん「△△ホーム」に入居させていただけるかどうかは、まだまったくの白紙状態です。いえ、収入は選考の際の重要なポイントの一つでしょうから、本人にどれだけの熱意があっても、現実に生活不可能な収入では、それだけで落選ということになってしまうでしょう。是非ご検討ご助力ください。 平成３年３月１５日 |
