頸損(頸随損傷)って?
ケイソン  ケイズイ ソンショウ         

シロヨメナ


 身体を支える大黒柱、それが脊椎です。いわゆる背骨ですね。けれどその脊椎は、家の大黒柱のように一本きりで出来ているわけではないらしいです(人間のは生で見たことないもんで)。何でもブロックを積み上げるように小さなパーツを幾重にも組み上げて出来ているらしいです。らしいらしいって、くどいですね、誰でもどこかで目にして知っていることなのに。
 で、その脊椎ですけど、部位によって、頸椎、胸椎、腰椎と分けられているんだそうです。下の女の子が僕の頼みに応じて脊椎を見せてくれているんで見てやってください。

 まあ、そんなわけです。それでもって、脊椎ブロックの一個一個は、それぞれ人間国宝の宮大工がこしらえたみたいにうまく出来ていて、ある程度のゆとりというか動くように、けれど外れないように組み上がっているらしいです。だって隙間なくぴっちり組み上げてあったら、僕らは突っ立ったままでいなくちゃならない。まあ、それはそれで、想像するに、愉快な人間社会にはなるだろうけれど。
 んで、その脊椎にはもう一つ役目があって、なんとそのブロックの中心は丸く穴があいているのだそうな。おじいさんはその穴におにぎりを・・じゃなくって、その穴には脊髄が通っているんだそうです。つまり大切な脊髄を守っているわけです。

 脊髄は、情報の伝達通路なわけです。今、犬の糞を踏んでるよ、とか、指が熱湯に浸かってるよ、とかいった末端の情報がただちに脊髄を通って脳に伝えられるわけです。脳はただちに臨時国会を開いて、じゃあ指を引っこめることにしよう、と決議され、指先地方はすぐ熱湯から指を出すようにという早飛脚が脊髄を突っ走って行くわけです。
 一極集中なんですね。身体のあらゆる場所に張り巡らされた末端神経が脊椎を通って脳に繋げられているわけです。そんなですから、たとえば指の神経は腕を通って頸椎に入り脳に直結されているといった具合ですから、脳に近い脊椎ほどたくさんの神経の束が中を通っていることになります。
 でもって脊髄損傷ですが、通常は脊椎の中を通ることによって守られているその脊髄が、外からの強い力によって脊椎がズレるなり潰されるなりして切断されてしまった状態をいいます。僕の場合ですと、下の女の子を見てもらえば分かりますが、頸椎の上から5番目と6番目を無理にねじ曲げ、その辺りから脊髄を切断してしまっているらしいです(見てないもんで)。

 身体のあらゆる細胞は再生されるのに、脳と神経の細胞は再生されないのだそうです。 神経が切れたらどうなるかというと、麻痺、疼痛といった異常感覚になります。僕はたばこを吸いますが、たばこが短くなって挟んだ指を焼いているのにまったく気がつかないでいたなんていうことが何度かあります。無痛なんです。かといって、すべてが無痛というわけでもなくて、身体のどこかに異常があると、どこから来るのか分からない、痛いようなかゆいような痺れに似た信号に教えられることもあります。脂汗が出ることもありますし、足先の内側が疼くこともあります。人によってちがうようです。

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 脊髄損傷者は、現在10万人越いるらしく、さらに毎年約5千人くらいずつが僕らの仲間になってきているらしい。たいへんな数です。資料によると、その原因のおよそ半数が交通事故で、残りが転落やプールでの飛び込みといったものとなっている。けれど転落といったって何も高い崖から落ちたといった特別な場所での事故ではなくて、僕の知っている人なんてわずか10センチくらいの教壇から足を踏み外したってことだから、脊損になる危険性はいたって日常的な場所に潜んでいるといえそうです。そして、たいていは突然にやってくるんです。そう、ほんのちょっと打ち所が悪かった。運が悪かったねって。でも、今も次々と生まれている脊損者の大半がより重度な頸損者とのことなんで、それはスピードアップした時代ゆえと言えなくもないような気がします。それと、このごろの医療の進歩によって、脊損者も長生きができるようになったし、頸損2,3番といったより重度な人も人工呼吸器を使って生存できるようになっています。その人口比率は増えることはあっても減ることはないと思います。重度であればあるほど人への依存度も高くなるので、この先もっともっと介護の手が必要となってくるはずです。早急の介護体制の確立、充実を求めたいと願うばかりではあります。