浄瑠璃床本「傾城阿波の鳴門 十郎兵衛住家の段」より



十郎兵衛住家の段

 よしあしを、何と浪花の町外れ、玉造に身を隠す、阿波の十郎兵衛本名隠し、銀十郎と表は浪人、内証は人はそれ共白浪の、夜の稼ぎの道ならぬ、身の行末ぞ是非もなき。
 折から表へいきせきと、飛脚と見へて草鞋がけ、内を覗いて、
 「申し、この状届けます」
と、投げ出す一通、女房取上げ、
 「上書きに『銀十郎殿へ急用』と書いた許りで下の名は」
 「内儀様、覚えがござりますか。私も人伝てに言付かつて参りしたけれど、必ず先へ直々にと、念入れて申されましたが、内方へ来る状かな」
と念を入るれば、
 「アヽ成程々々、下の名はなけれども、上書きの手は慥かにこちに見知りがごさんす。置いて往んで下さんせ。夫も今は留守なれば、帰られ次第見せませう。マア這入つて煙草でも」
 「マヽヽイエイエ、まだ外へ届ける状、急用なれはもうお暇。お返事あらば、後から」
と、言ひ捨て出づる町飛脚、元来し道へ立帰る。
 後打ち眺め女房が、心がかりと封押し切り、読む度毎に驚く胸、
 「ヤア、こりや是、夫を始め『仲間の衆へも吟味がかゝり、詮議厳しくなつたる故、捕へられし者もあり。最早遁れず立退け』との知らせの状。スリヤ夫十郎兵衛殿の身の上も、今日一日に迫つた難儀。昨日長町裏で危い所を漸々遁れ、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、今又この状の文体では、なかなかかうしてゐられぬところ。我とても女房の身、ことに騙りの同類なれば、罪科遁れぬ夫婦が命、今更驚く気はなけれど、一合取つても侍の、家に生れた十郎兵衛殿、盗み騙りと成り果しも、国次の刀詮議の為、重い忠義に軽い命、捨つるは覚悟といひながら、肝心のその刀、在り処も知れぬその内に、もしこの事が顕はれては、これまで尽くせし夫の忠義、皆無駄事となるのみか、死んだ後まで盗賊に、名を穢すのが口惜しい。盗み騙りも身欲にせぬ、女夫が誠を天道も、隣れみあつて国次の刀の詮議済む迄の、夫の命助けてたべ」
と心の内に神仏、誓ひは重き観世音。
 普陀落や、岸打つ波は三熊野の、那智の御山に、響く滝津瀬。
 年は漸々とうどうの、道をかけたる笈摺に、同行二人と記せしは、一人は大悲の影頼む。
 ふるさとを、遥々こゝに、紀三井寺。
 「順礼に御報謝」
と、言ふも優しき国訛。
 「テモしほらしい順礼衆、ドレドレ報謝進ぜう」
と、盆に白米の志、
 「アイアイ、有がたうござります」
と、言ふ物腰から褄外れ、
 「可愛らしい娘の子、定めて連れ衆は親御達、国はいづく」
と尋ねられ、
 「アイ、国は阿波の徳島でござります」
 「何ぢや徳島、さつてもそれは、マア懐しい。わしが生れも阿波の徳島、そして父様や母様と一緒に順礼さんすのか」
 「イエイエ、その父様や母様に逢ひたさ故、それでわし一人、西国するのでござります」
と、聞いてどうやら気にかゝる、お弓は猶も傍に寄り、
 「ム、父様や母様に逢ひたさに、西国するとはどうした訳ぢや、サそれが聞きたい、サ言ふて聞かしや」
 「アイ、どうした訳ぢや知らぬが、三つの年に父様や母様も、わしを婆様に預けて、どこへやら往かしやんしたげな。それでわたしは婆様の世話になつて往たけれど、どうぞ父様や母様に逢ひたい、顔が見たい。それで方々と、尋ねて歩くのでござります」
 「ムヽ、シテその親達の名は何というぞいの」
 「アイ、父様の名は十郎兵衛、母様はお弓と申します」と、聞いて吃驚り、
 「アヽコレコレ、アノ父様は十郎兵衛、母様はお弓、三つの年別れて、婆様に育てられてゐたとは、疑ひもない我が娘」
と、見れば見る程幼顔、見覚えのある額の黒子、
 「ヤレ我子か、懐しや」
と言はんとせしが、
 『待て暫し。夫婦は今も取らるゝ命、元より覚悟の身なれども、親子といはゞこの子にまで、どんな憂目がかゝらうやら、それを思へばなま中に、名乗り立てして憂目を見んより、名乗のらでこの儘帰すのが、かへつてこの子が為ならん』
と、心を鎮め余所余所しく。
 「オヽそれはまあまあ、年端も行かぬに遥々の所を、よう尋ねに出さつしやつたのう。その親達が聞いてなら、さぞ嬉しうて嬉しうて飛立つ、サア、飛立つ様にあらうが、儘ならぬが世の憂きふし。身にも命にもかへて、可愛い子を振り捨て、国を立退く親御の心。よくよくの事であらう程に、酷い親と必ず必ず恨みぬがよいぞや」
 「イエイエ勿体ない、何の恨みませう。恨みる事はないけれど、小さい時別れたれば、父様や母様の顔も覚えず、余所の子供衆が、母様に髪結うて貰うたり、夜は抱かれて寝やしやんすを見ると、わしも母様があるならあの様に髪結うて貰はうものと、羨やましうござんす。どうぞ早う尋ねて逢ひたい、ひよつと逢はれまいかと思へば、それが悲しうござんす」
と、泣いぢやくりするいぢらしさ、母は心も消え入る思ひ、
 「さてもさても世の中に、親となり子と生るゝ程深い縁はなけれどもナア、親が死んだり子が先立つたり、思ふ様にならぬが浮世、こなたもどれ程尋ねても、顔も所も知らぬ親達、逢はれぬ時は詮ない事。もう尋ねずと、国へ往んだがよいわいの」
 「イエイエ、恋しい父様や母様、たとへいつ迄かゝつてなと、尋ねうと思ふけれど、悲しい事は一人旅ぢゃてゝ、何処の宿でも泊めてはくれず、野に寝たり、山に寝たり、人の軒の下に寝ては、た、た、叩かれたり。怖い事や悲しい事も、父様や母様と一所にゐたりや、こんな目には逢ふまい物を、何処にどうしてゐやしやんすぞ。逢ひたい事ぢや逢ひたい事ぢや、逢ひたい」
と、わつと泣き出す娘より、見る母親はたまり兼ね、
 「オヽ道理ぢや、可愛や、いぢらしや」
と、我を忘れて抱き付き、前後正体嘆きしが。
 「是程親を慕ふ子を、何とこの儘去なされう。いつそ打ち明け名乗らうか、イヤイヤそれではこの子も同じ罪、その時の悲しさを思ひ廻せば、去なすが為」
と、
 「オヽ段々の様子を聞き、我が身の様に思はれて、悲しいとも情ないとも、言ふに言はれぬ事ながら、兎角命が物種。まめでさへゐりや、又逢はれまい物でもない。コレ、仕付けぬ旅に身を痛め、煩ひでも出りや悪い。何処をしやうどに尋ねうより、その婆様の方へ去んでゐるとノ、追付け父様や母様が逢ひに往てぢや程に、悪い事は言はぬ、悪い事は言はぬ、なんの又このおばが、わが身の為にならぬ事を言ふてよいものか、わが身の為にならぬ事を言ふてよいものかいの。思ひ直して、これから直ぐに国へ去んで、随分まめで親達の尋ねて行かしやるを待つてゐるのがよいぞや」
と、宥めすかすを聞き分けて、
 「アイ、忝なうござります。お前がその様に言ふて泣いて下さりますによつて、どうやら母様の様に思はれて、わしやこゝが去にとむない。申しお家様、どんな事なと致しませう程に、お前の御傍にいつ迄も、わたしを置いて下さりませ」
 「エヽ悲しい事を言ひ出して、又このおばを泣かすのか、泣かすのかいの。さつきにからわしもわが子、サア、わが子の様に思ふて、こゝに置きたい、去なしとむないと、様々思ひ廻せども、こゝに置いてはどうも為にならぬ事があるによつて、それでつれなふ去なすのぢや程にの、聞分けて去んだがよいぞや」
と言ひつゝ内へ針箱の、底を探して豆板の、まめなを喜ぶ餞別と、紙に包んで持つて出で。
 「コレ、何ぼ一人旅でも、たんと銭さへやりや泊める。わづかなれども志、この金を路銀にして、早う国へ去にや、ヤ、必ず必ず煩ふてばしたもんな」
と、金を渡せば押し戻し、
 「アイ、嬉しうござんすれど、金は小判といふ物を、たんと持つてをります。そんなりやまうさんじます、忝なうござります」
と、泣く泣く立つを引きとゞめ、無理に持たして塵打ち払ひ、
 「コレ、もう去にやるか、名残りが惜しい、別れとむない、コレ、マ今一度顔を」
と引き寄せて、見れば見る程胸迫り、離れ難なき憂き思ひ、それと知らねど誠の血筋、名残り惜げに振返り、
 「どこをどうして尋ねたら、父様や母様に、逢はれる事ぞ、逢はしてたべ、南無大悲の観音様」。
父母の、恵みも深き粉川寺、泣く泣く別れ行く跡を、見送り見送り延び上り、
 「コレ娘、ま一度こちら向いてたも、ま一度こちら向いてたもいの。折角長の海山越え、艱難してあこがれ尋ぬるいとし子に、不思議と逢ひは逢ひながら、名乗らで退かす母が気は、どの様にあらうと思ふ、狂気半分、半分は死んでゐるわいの。まだ生い先のある子をば、親故路頭に立たすか」
と、その儘そこにどうと伏し、消え入るばかり嘆きしが。起き直つて涙を押へ、
 「イヤイヤ、どう思ひ諦めても、今別れては又逢ふ事はならぬ身の上、たとへ難儀がかゝらばかゝれ、又その時は夫の思案、程は行くまい追付いて、連れて戻らう。さうじや、さうぢや」
と子に迷ふ、道は親子の別れ道、後を慕うて、尋ね行く。

 既にその日も入相の、金の工面も引き違ひ、ほが家へ戻る十郎兵衛、順礼の子の手を引いて。
 「女房共、戻つたぞ」
と、内へ這入つて見廻し、見廻し、
 「こりや日暮れ紛れに火も灯さず、何処へ行つた」
と呟き呟き行燈灯し煙草盆、提げてどつさり高胡座。
 「コレそこな子、サ、マアこゝへおぢや、こゝへおぢや、ハテマアこゝへおぢやいの。今小父が戻る道で、乞食共が 寄り集りわが身を剥いで金取らうと、抜かしてをるを聞いた故、それでおれが連れて戻つたが、わが身や金でも持つて居やるかいの」
 「アイ、余所の小母様に貰ふて持つて居ります」
 「ムヽ、何がそんな事とを悪者共が頑張つて、オヽあぶない事ぢや、あぶない事ぢやのハヽヽヽヽ。そしてその金はどれ程ある、どれ小父に見しや、見しや」
 「アイ、これ程ござんす」
と、貰ふた金を差し出だせば。
 「ムヽ、こりや小玉が五十匁ばかり。そしてもう外に金はないか」
 「イエ、まだ小判といふ物がたんとござんす」
 「エヽ、何ぢや小判がたんとある、アノ小判が。てもマアそれはよい物を持つて居やるの、ハヽヽヽヽ。これ、この辺りは用心が悪いによつてその様に子供が金持つて居ると、つい人に取られてしまふ。どれ、小父が預つてやろう、こゝへ出しや」
と、武太六に約束の、足しにもなろかと心の工面、騙しかくれど、合点せず、
 「イエイエ、この財布の中には大事の物が包んである程に、人に見せなと婆様が言はしやんしたによつて、誰れにも遣る事なりません」
と、大事にする程、猶見たく、
 『威して見ん』と目をいからし、
 「エヽその様に隠すと、為にならぬぞよ」
 「サア、それでも大事の金ぢや物」
 「サイアイ、その大事の金ぢやによつて、持つてゐると為にならぬ。片意地言はずと預けておきや」
と、言ふ程怖がる子供心、
 「エヽ、こんな所に居る事嫌や」
と、逃げ出る首節引掴めば、
 「あれ怖い、怖い」
 「エヽ、喧しい、喧しい。近所へ聞こえる、声が高い」
と、口へ手を当て、
 「これ、何にも怖い事はない、何も怖い事はない。有様はわしもちつと金の要る事があるによつての、何ば程有るか知らねども、二三日預けてたもや。その内には又拵へて戻さう程に、マアそれ迄はこちの内にゆるりつと逗留しや。又観音様へもこの小父が連れて参る程に、よい子ぢや、聞分けて、サアちやつと借してたも」
と、両手放せば、がつくりと、そこへその儘倒るゝ娘、
 「コリヤ何とした、どうした」
と、言へどもさらに物言はず、息も通はぬ即死の有様、
 「ヒヤア南無三宝、コリヤ目がまふたか、コリヤ順礼の、ム、順礼の娘やい」
と、呼び活け呼び活け口押し明け、
 「コリヤコレ、気付も水ももう叶はぬか、ホイ」
 『ハツ』と計りに俄かの敗亡、
 「エヽ、声立てさせじと口へ手を当てたが、思はず息を留め、それで死んだか、ハアこりや、まあ不憫」
とばかり、呆れ果たる折からに。
 表へ聞こゆる足音は、『女房ならん』と、蒲団で死骸、堤伝ひを息せきと、戻るお弓が、
 「オヽ、こちの人戻つてか、サア、ちやつと往て尋ねて、尋ねて尋ねて尋ねて」
 「ヤイヤイ狼狽え者、後先厭はず尋ねてとは、そりやマア一体何を尋ぬるのぢや」
 「サイノウ、お前の留守のその間に、国に残した娘のおつるが、不思議とこゝへ来たわいのう」
 「ヤ、何ぢや娘が来た、そりやマア何かい、母者人と一緒にか」
 「イエイエ、おつる一人でござんする。様子を言へばい事、不思議に娘と知つた故、飛び付く様に思ふたれどな、悲しい事はお前もわしもお尋ねの身」
 「アヽコリヤ、大きな声すなやい」
 「さいなあ、お尋ねの身分なれば今にも知れぬ身の罪科を、何にも知らぬ娘に迄、共に難儀をかけうかと、わざと親子の名乗りもせず、気強う言ふてこの内を退なしごとは退なしたが、後で思へば思ふ程、どうも捨てゝ置かれぬ故、直に後から尋ねに往たれど、影も形も知れぬ故、それでお前と手分けして尋ねうと思ふて戻った。サア、ちやつと往て尋ねて下さんせ、ちやつと往て尋ねて下さんせいなあ」
 「ヤイヤイたわけめ。どんな事があるとて、おれにも知らさず追い去なすとは、鬼でもそんな胴慾な事はせぬわい。イヤイヤかう言ふては居られぬ」
と、駆け出だせしが、
 「コリヤ、そして幾つばかりで、どんな着物着て居るぞ」
 「ハテ知れた事、年は九つ、中形の振り袖に、笈摺掛けて」
 「何ぢや、笈摺掛けて」
 「アイナ、笈摺も二親のある子ぢやによつて、両方はかう茜染」
 「アノ茜染に、中形か」
 「アイノウ」
 「ホイ」
 『ハツ』と肝に焼鉄刺さゝる心地、
 「エヽコレ、隙が入る程心が済まぬ。お前は跡からわしや先へ」
と、言ひ捨て駆け出すお弓を留め、
 「アヽコリヤ待て、もう尋ねずとも止しにせい。娘は疾うから戻つてゐるわい」
 「エヽ戻つて居る、戻つて居るとは、そりやマア何処に」
 「ソレ、そこの蒲団の内に、よう寝入つて居るわい」
と、言ふに不審も立つ縞の、蒲団を明けて顔見るより、
 「オヽほんに娘ぢや娘ぢや、オヽ嬉し。エヽマお前もこんな事なら、とうからさうと言ふたがよい。人に息精揉まして、エヽなんぢやいな、マア嗜ましやんせ」
と、恨みながらも気はいそいそ。
 「何とマア見やしゃんしたか、大きうならうがな。そしてマア滅相な、いかに草臥れて居ればとて、からげも下ろさず、笈摺も掛けたなり。ドレドレ帯解いてゆつくりと、久しぶりで母が添乳」
と、笈摺外し帯解く解く、見れば手足も冷えわたり、息も通はぬ娘の死骸、
 「ヤア、コリヤ娘は死んでゐる。どうして死んだ、どうして」
と、余りの事に戻も出でず立つたり居たり夫の傍、
 「コレイナコレ、あの娘はどうして死んだ、お前、様子知つてぢやあらう、サア、サヽヽヽヽ言ふて聞かして、聞かして」
と、気も取り上ぼす有り様を、見るに皮肉も離るゝ切なさ、
 「ホヽ、道理ぢや、尤もぢや。様子といふたら因果づく、さつきに内へ戻る道で、その娘が金を持つて居るを、非人共がよう知つて、取るの剥ぐのと聞いた故、可愛そうにと連れて戻り、様子を聞けば金も有る故、少々なりとも武太六に返す工面、二三日貸してくれと訳を言へども子供の事、声山立てゝ泣き喚く。とつともう、近所の聞こえが気の毒さに、つい口を押へたが息が詰つて、ソ、ソ、ソレ、その様に死んでしまうた。エヽ、いぢらしい事したと、余所の様に思ふたが、それが娘であつたとは、物の報ひか因縁事、コリヤ、堪えてくれよ女房」
と、聞く程身も世もあられぬ悲しさ、
 「そんならお前が殺さしやつたのかいな」
 「コリヤ」
 「テモお前が殺さしやんしたのかいな。ハテ、テモさても是非もなや、情なや」
と、母は死骸を抱き上げ、
 「コレ娘、これ程酷い親々を、よう尋ねて来てたもつたの。一人旅では泊め手はなく、野に寝たり山に寝たり、怖い事や悲しい事も、父様や母様に逢ひたさ故と言やつた時はノコレ、悲しうて悲しうて、身ふしも骨も砕くる様にあつたれどナア、そこをぢつと辛抱して、親とも言はず退なしたのは、わが身が可愛さばつかりぢや。何の憎うて退なさうぞ、何の憎うて退なさうぞいなあ。その時留めて置いたらば、かういふ事もあろまいに、退なした故のこの間違ひ、それから起つた事となれば、殺さしやつたもわしが業、コレ、堪忍してたも、堪忍してたもや。年端もいかで遥々の、道を厭はず苦労して、親を尋ねる孝行娘、親は、それには引き替えて、酷うつれなう追ひ返し、まだその上に親の手で、殺すといふはエヽマ何事ぞ。別れに言やつた順礼歌、父母の恵みも探き粉川寺。どこにこれが恵みが深い、こんな酷い親々が、広い唐にも天竺にも、ま一人とある物か」
と、死骸の顔に我が顔を、押し当て押し当て抱きしめ、流涕焦がれ伏し沈む。俄かに騒ぐ声足音、十郎兵衛きつと心付き、
 「コリヤコリヤ女房、あの物音は必定捕手に違ひない。何百人取り巻くとも、刀を我が手に入れん内は、切つて切つて切り抜ける」
と、娘の死骸を引抱へ、泣き入る女房を引立て引立て、一間の内へ入りにける。程なく来たる捕手の大勢、
 「ヤアヤア、盗賊の銀十郎、本名は阿波の十郎兵衛、この所に隠れ住む由、武太六が訴人によつて、召し捕りに向ふたり。尋常に縄掛かれ」
と、声々言へど、
 「音せぬは、風を喰らうて逃げ延びたか。家内残らず打ちこぼて、人数は半分裏道へ、廻れ廻れ」
と言ふ下家、天井戸障子仏壇戸棚、粉もなく砕く壁下地、隙間も洩らさぬ大勢の、捕手を相手に十郎兵衛が、火花を散らして、挑みしが。十郎兵衛一人に切り捲くられ、皆蜘蛛の子の散り散りに、逃げ行く透間に女房が、
 「この間にちやつと十郎兵衛殿」
 「オヽ合点、コリヤ女房、娘の死骸は何とした」
 「そりや気遣ひござんせぬ、これ、この通り」
と死骸の上、落ち散る戸障子積み重ね、松明の火を差し付けて、人手に渡さぬ火葬の営み、
 「南無阿弥陀仏」
と合はす手も、別れ、別れて立ち出づる。


以上が床本の写しになります。
忠実に写したつもりです。誤字脱字は無いと思いますが、
改行については、ページの読みやすさを配慮して、
私個人の判断での改行ですので、その事はご了承ください。
音声でお聴きになりたい方は、コチラで公開しております。
また、重いファイルですが、動画でもご覧いただけます。
「観る」から、「徳島三昧」へとお進みください。。

 

 

 

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