トーク
尺八との出会い
小学5年生の春です。
今も子供達が 小学時代から野球を始め「甲子園」「プロ野球選手」を夢見るように、その頃の私も自分の中で
 「得意なもの」「好きなもの」作りたかった。
私の学校では新学期が始まると「音楽」の授業で週に一度だけ男の子は尺八、女の子はお箏を習う「邦楽の時間」が
新しく始まりました。
今から始まる新しい授業なら クラスの中で一番になれるかもしれないと思った。
音楽は好きだったし 同級生の中で誰よりも早く音が鳴った事も うれしかった。
尺八は 子供にとってはかなり苦しい楽器で 音を鳴らそうと息をフーフー吹き込むと 頭がクラクラした。
それでも ピーと大きな音が出た時は とても嬉しく 週に一度の「尺八の時間」が 
学校の授業の中で 一番の楽しみになった。
その時 教えていただいた先生が 師匠木村岳宇山先生。 30年以上経った今もご指導を受けています。
 「尺八との出会い=木村先生との出会い」です。
先生との出会いがなければ 尺八はやってなかっただろうし 自分の中で 「自信の持てる何か」を見つける事も 
できなかったと思います。
初舞台
12歳の時 地元のラジオ番組「こどもの広場」出演です。
演奏した曲は お箏と尺八の合奏曲「月見草」という 可愛らしい曲です。
お相手してくれたお箏の人は 同じ年の女の子です。
練習の時は ちゃんと音が出ていたのに いざ本番となると
緊張のため唇が乾き スースーという音ばかり・・・。
うがいをして もう一度挑戦しても やはり スースー。
しかたなく 曲の繰り返し部分を省略し 演奏を短くして 何とか終了した事を 今もはっきり覚えています。


その時の懐かしい写真です。

RNC西日本放送局のスタジオにて


司会の植松おさみアナウンサーと一緒に
   

 
     


 師匠の想い出

月日が経つのは早いもので、師匠・木村岳宇山先生が亡くなられてから四年が過ぎました。そして昨年3月には木村先生の後を継ぎ、会を牽引して下さっていた細川邦風山先生まで亡くなり、とても残念でなりません。 

私が木村岳宇山先生に指導を受け始めたのは小学5年生の時でした。 その頃の想い出で印象に残っているのは 唱譜の練習です。唱譜とは膝を叩いて一定のリズムを刻み、それに合わせて楽譜を読むことですが、裏拍から始まる旋律が続くと リズムを一定に保つことが出来なくなり 何度も注意されました。尺八の授業のなかでも「唱譜のテスト」が行われたこともあります。 先生の前で膝を叩きながら大きな声を出して唱譜するのですが 緊張で声は震え頭は真っ白になり練習ではうまく出来ていた所も間違えてしまいます。何度も間違えると「ダメ!やり直し」と大きな声が飛んでくる厳しい先生でした。

そして尺八を吹く姿勢についても 背筋を伸ばししっかりカッて吹くこと。音はかすれてもかまわないから 真っ直ぐな音で吹くようにと教えられました。ある時先生が「音はの〜 自分が練習したら なんぼでも良くなる。でも拍子が悪いんは 教えた師匠の責任じゃ」と言われたことがあります。唱譜や姿勢は尺八の基本です。今思えば その当時の厳しさは 師匠として基本をしっかり身につけさそうとしてくれたのだと分かりました。

中学生になると 演奏会にも出してもらえるようになりました。先生の横に並んで演奏出来るだけで嬉しかったし 先生の迫力のある音がどんどん耳に飛び込んでくることに感動しました。合奏練習の時は先生から「しっかりお箏の音を聴きなさい」と言われました。 この先生からの指摘で 自分が吹く事に一生懸命になりすぎて周りの音を聴けてなかったことに気づきました。そして注意してお箏の音を聴くと、音の強弱や緩急が分かりはじめ 合奏がより一層楽しく感じるようになりました。

また尺八の独奏曲では、ひとつひとつの音を丁寧に気持ちを込めて吹く事の大切さ教えてくださいました。 私が都山流本曲コンクール全国大会で決選に残った時も 先生は「頑張れ!」と言ったあと 「いや、普通でええんぞ」と言われました。私はどうして「普通でええ」と言ったんだろうと考えた時 良い演奏をしようと考え過ぎずに 今までやって来たことをそのまま出せばいいんだと 気づかされました。このように師匠は 私の心に染み込むような言葉を幾つも残してくれました。そして私がコンクールで優勝した時は自分の事のように涙を流して喜んでくれる心の温かい先生でした。

 私もお弟子さんを教える立場になった今 師匠の言葉を心に刻み 基本の大切さや合奏の面白さ そして本曲や独奏曲の奥深さを伝えられる指導者になれるよう これからも精進したいと思っております。

 
2016年 1月 発行  香川県三曲協会報「香川三曲だより」より。

 
 師匠 木村岳宇山先生と一緒に




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