by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

 近くで見るとその狂暴さがいやという程よく分かる。その怪物は自慢の腕力で工場等を破壊している最中だった。

 『い、いくぞ!』

 洪介は自分を奮い立たせる。そうして光沢のある剣を汗ばんだ手で握り直した。そして怪物の足元へと飛び込んでいった。

 るり子は紗綾と一緒にいた。

 「わたしは工場の中にいる人を助けに行きますから、るり子さんは……あいつを攻撃して下さい。落ち着いてやれば大丈夫ですから」

 紗綾の言葉を受けて、るり子は少し勇気が出たような気がした。

 『落ち着いてやれって言っても……』

 しかし、まだ不安は拭い切れないようだ。

 「しまったぁ!」

 洪介はスキをつかれてしまった。怪物の足が近づいてくる。逃げる暇もなく彼は蹴飛ばされてしまい、そのまま工場の壁に激突してしまった。とてつもない力である。

 「先輩……!」

 るり子の目が大きく開かれる。

 「わたしだって……!」

 彼女が意識を集中させると、怪物が壊した建物の残骸である瓦礫が大きく動き出した。始めは一つや二つだったが、やがて十も二十もの数になっていく。そしてるり子が手を振りかざすと、その瓦礫たちは怪物目掛けて吹っ飛んだ。

 ズシリと重い音が響いて、怪物に命中する。そいつはたまらず倒れてしまった。その上から容赦なく瓦礫が積み重なり、怪物に覆い被さるように瓦礫の山が出来上がった。

 るり子は洪介のもとへと駆け寄った。

 彼は背中を強く打っているようで苦しそうな表情を浮かべたまま動けずにいた。しかし、るり子には何もしてやれることはない。できることといえば目にうっすらと涙を浮かべたまま彼の手を握ることぐらいだ。

 そこへ紗綾がやってきた。

 「泣かなくても大丈夫よ」

 そう言って彼女にハンカチを渡す。そして膝を正し、洪介の手をとった。目を閉じて祈る。

 しばらくすると紗綾の体から青い光が淡く発せられているのが見えた。るり子は不思議そうな視線でそれを見つめる。しだいに心も体も落ち着いて安らかな気分になってきた。

 ぼんやりと見える青い光のせいなのだろうか。

 その光は、紗綾が彼の胸に添えた手から流れ込むように洪介を包み込んでいる。やがてその光はスッと消えた。その直後に洪介が目を覚ました。

 「痛みが消えた……」

 そう呟くと彼はすっくと立ち上がる。そして背中に手を回して触れてみるが、傷は癒えているようだった。

 「工場の人たちは助けました。さぁ帰り……」

 紗綾も立ち上がったが、そう言い終わらないうちによろめいてしまった。

 「紗綾さん!」

 とっさにるり子が体を支えた。がしかし、彼女が目を開く気配などは全く感じられない。二人は彼女の家へと戻ることにした。

 

 

 紗綾がゆっくりと目を開くと、そこにはるり子と洪介がいた。しばらく頭の中がはっきりしない。

 「よかったぁ」

 るり子はほっと息をつくとそのまま倒れるように椅子に座った。紗綾はちょっと頭を押さえると、すっと起き上がり、ベッドから降りた。そして時計を見る。午後六時を少しまわったところだった。

 「もうこんな時間。夕食の支度をしなくっちゃ」

 「まだ、安静にしておかないと……」

 洪介が心配そうに言うが、彼女の血色は良かった。彼女に『大丈夫です』と笑顔を見せられると、何も言い返せなくなってしまった。

 「あ、わたしも手伝います」

 るり子の瞳が嬉しそうに輝く。

 今夜の食事はカレーだった。

 「やっぱり美人の二人が作る料理はうまい!」

 洪介は満面の笑みをたたえてそう言った。

 「いやだ、先輩ったら……」

 るり子は恥ずかしそうにうつむいた。紗綾は何も言わずに照れている。

 『只今入りました情報をお伝えします。謎の異星怪物を倒せる何者かが、我が街、個々野(ここの)街にいるかもしれないということです……』

 「なんだって!」

 洪介を含む三人はテレビのアナウンサーに注目する。

 『……怪物が現れましたが、数分もたたないうちに消えたということです。自衛隊では……』

 テレビは続けたが、三人は聞いていない。

 「良かったですね。三人目も見つかりそうです」

 紗綾の言葉に他の二人は大きくうなずいたのだった。

 

 

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