「開かれた開かずの間」 by 上山 環三
死に たい・・・・。誰に聞こえるともなく、彼女は呟いた。 ゴミ置き場に一人。その彼女の斜め後ろから暖色の西日が差し込み、黒く、幽霊みたいな影を地面に映す。 もう死んでしまいたい・・・・。 『死んじまえ』 机の上に無造作に開かれたノートがフラッシュバックする。 『おまえの顔見てるとムカつく』 そのノートにはサインペンでそう書きなぐってあった。一文字ずつ 色を変えて――。 高校に入学して二ヵ月、彼女に対するいじめは日に日に増長してきた。中学からいじめを受けてきた彼女は、高校でその忌まわしい過去と決別するつもりだった。必死で猛勉強し、同じ中学出身の生徒のいない、この順風高校を受験したのもその為だった。 下校を知らせるチャイムの音が校内に響く。 うな垂れたまま、彼女は頭を上げる事はない。捨てられたノートを、彼女は見ている。その、きつく結ばれた唇が、拳がふるふると震えている事に、気付く人間はいない・・・・。 と、その時。 《――助けて・・・・!》 「・・・・?」 彼女は突然の声に我に返った。――いや、今のは果たして本当に肉声だったのだろうか? 人の声、と言うには心を抉り取ったような切ない悲鳴・・・・。 《助けて、遥・・・・!》 「!?」 それは直接彼女の心に響いてきた。しかも彼女の名前を呼んで――。 「・・・・ダ、レ・・・・?」 そう。それは彼女がいつも聞いている心の声。押し殺し、必死で乗り越えようとして足掻いている自分自身の声・・・・! 《遥・・・・、来て!》 その声に導かれるように、彼女は歩き始めた。その声は遥にだけしか聞こえていない。そうするとやはり普通の『音』ではないようである。しかし、彼女にとってそんな事は些細な問題でしかなかった。 《助けて!!》 助けなきゃ! 『彼女』を助けなきゃ・・・・! そして、彼女は誰も開けなくなった鉄の扉の前に立つ。 《出して! 私をここから――!》 その声に言われるまでもなく、彼女はその錆びた扉を引いた・・・・。 |
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