「開かれた開かずの間」 by
上山 環三
あれから――、遥は変わった。友達もでき、教室で笑顔を見せる事も多くなった。特に京子が 「中学からの友達みたい」 なんてな事を言い出した時は、意外な取り合わせに本当に驚いた。亜由美はそんな遥を見て、あれでよかったんだと思わずにはいられなかった。 放課後――、亜由美は旧校舎へ向かっていた。 その教室で、封鬼委員長の麗子と大地、そしてまだ名前も知らない男子生徒が彼女を迎える。 「ようこそ。亜由美ちゃん」 麗子のその言葉に、亜由美はやや緊張しながら 「一年の神降 亜由美です。よろしくお碩いします」 と、頭を下げた。 あの夜、改めて麗子から封鬼委員会への勧誘を受けた亜由美は、封鬼委員として自分の力を役立てる決意をしたのである。それは、初めて麗子から封鬼委員会の話を聞いた時に実は決めていた答えだった。もっとも、彼女は祖母に相談し、三宅とも話して、決心をより固めている。 「こちらこそ。でも――、いいの?」 麗子はそう訊ねる。しかしすぐに 「はい」 と言う、小気味よい返事が返ってきた。まぁ、その辺も予想して彼女は聞いていたりする。 「ええと、二人は知ってるんだよな」 今度は亜由美の知らない男子生徒が口を開いた。。 「僕は、三年の寺子屋 文雄。よろしくな」 眼鏡の奥の目が知的な光を湛えている。しかしその視線は柔らかい。 「はい。よろしくお願いします」 「――あと、本当はもう一人、二年の滝 雫って言うのがいるんだけど、非常勤なんだ」 非常勤ですか・・・・と、真に受けて亜由美は繰り返した。そんなものがあるらしい。 「文雄くん、変な事教えないでよ――。ゴメンね亜由美ちゃん。彼女はちょっとワケありであんまり顔を見せないのよ」 と、麗子が仕方なさそうに笑った。「あんまり学校にもこないの子でね・・・・。ま、そのうち会えるから」 「は、はい」 と、まだ緊張している亜由美を見て、寺子屋が 「そんなに硬くならなくてもいいさ」 と、微笑む。「こいつを見てみろ。いつも緊張感のない顔をしてる」 寺子屋は大地を指差した。『こいつ』と指まで差された大地は、そりゃないですよぉ! と、抗議する。その様子が可笑しくて、ついつい亜由美は吹き出してしまった。それを見た大地がますます腐る。 もっとも、大地の力強い側面も亜由美は知っている。 そして――、麗子が口を開いた。どうやら彼女が口を開くと、不思議と場が静まるものらしい。 「これからこのメンバーでいくわよ」 その言葉に、その場にいた者全員互いに視線を交わす。 「力を合わせてがんばりましょう・・・・!」 ――亜由美は思う。もう二度とあんな悲しい事件を起こしてはならない、と。その為に、自分の力があるのだとも思った。 こうして顔合わせは終了した。 この後は知らない間に亜由美の歓迎パーティーになっているらしい。三年生二人の何だか異様な盛り上がりに、何やるんですか? と、隣にいた大地に小声で聞くと 「カラオケだよ」 と、彼はさえない表情で言った。「最近二人ともハマッててね・・・・。亜由美くんは歌えるの?」 亜由美は上目遣いに大地を見ると首を横に振った。ため息が出そうになる。そうして顔を見合わす二人に、しかし 「さぁ行くわよっ!!」 と、麗子の威勢のいい声が飛んできたのであった。
〈終わり〉 |
|
【B A C K】 【T O P】 【小説広場】 |