夏休みが目前に迫ったある日の放課後、亜由美はシューズロッカーで雫に会った。
亜由美はここぞとばかりに雫の隣に立って話し掛ける。 「南雲先輩の家で、術がかけられてるドアを開けた事がありましたよね?」 「・・・・それがどうかした?」 「雫さん、そのままドアのノブに触って、術は発動したのに傷一つないし・・・・アレは一体どういう事だったんですか?」 沈黙の後 「さぁ、大方術が不完全だったんじゃないの・・・・?」 と、素っ気無く雫は答えた。こういう時の彼女は恐ろしく話し掛け辛い。 「・・・・。あの、じゃあ、あの退魔術は・・・・?」 「・・・・」 亜由美の質問に、ふうっと一息ついて、雫は浅い笑みを浮かべる。 「・・・・さぁねぇ・・・・ある人に教えてもらったとでもいっておきましょうか」 そう言って、ゆっくりと雫は歩きだした。 無言のままでグラウンドを抜け、校門を出る。 亜由美はその後に続いている。そして、沈黙に堪えかね再び彼女が何か言おうとした時だった。 「知らない方がいい事もあるのよ」 不意に雫はそう口走った。 「――え?」 亜由美は、すぐには雫が何を言おうとしたのか分からなかった。 「ど、どう言う事ですか――?」 雫が立ち止まった。ぶつかりそうになって、亜由美も慌てて立ち止まる。 「これは私の問題なの。それ以上言うと・・・・、あなたとはもう一緒にはいられないわね」 振り向いた雫は、毅然とした、しかし悲しそうな眼差しを後輩に指し向けた。その視線に、亜由美は思わず身をすくめる。 ――嫌悪感。 が、それはすぐに掻き消えた。亜由美はそれに戸惑う。 「先輩から、何も聞いてないのね」 と、雫はそのまま天を仰いだ。 真夏の太陽の光を全身に浴びる雫。眩しそうに空を見つめる彼女の表情にはあるはずのない陰りが見て取れた。 それが何を意味しているのか――、今はまだ亜由美には分からない。 雫もそれ以上、何も語ろうとはしない。 その亜由美の戸惑いを嘲笑うかのように、雫のポニーテールがそよ風にさらさらとなびいた・・・・。 |
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