順風高校封鬼委員会 T−B

 「ホルマリン漬けの復讐」

 

 順風高校の二学期は何事もなかった(?)ように始まった。 

 東雲 麗子と寺子屋 文雄の三年生二人は、さらに受験勉強に精を出しているようである。

 そして、封鬼委員会の定期会議――。

 相変わらず雫は顔を出さない。 

 「また、二人だけですね」

 「そうだなぁ」

 気の抜けた返事を返して、大地は亜由美に睨まれた。

 二人とも包帯が取れたばかりである。

 格闘になるとあんなに頼りになるのに、今の気の抜けた山川先輩って・・・・何? と、亜由美は思わずにはいられなかった。

 「何だよ? こっち見て」

 「え・・・・? べ、別に」 

 女心とは複雑である。

 さて、亜由美の想いは大地に届くのだろうか(秋の空、と言う事はなさそうであるが)。

 ――戸田 吾郎はハネムーンから帰ってきた加賀と交代し、生物準備室に帰っていった。彼は生物授業に関した事件が起きる度にこうして出てくるのだと言う。

 「これからも封鬼委員会の活動を見守っていますよ」

 亜由美と握手を交わして、戸田は言った。

 そして――、クロノは妙子に見送られて逝った。

 「ありがとう。クロノ」

 空を見上げる妙子の目から、涙がこぼれていた。

 「ありがとう・・・・」

 そして、妙子は普通の生活へと戻っていった・・・・。

 「そう言えば寺子屋さんが今、執行部の子を勧誘してるらしいよ」

 大地は口を開いた。

 「そうなんですか・・・・」

 「あれ、何か嫌そうだなぁ」

 「え、そんな事ないですよ」

 亜由美は笑顔を作った。それは多少引きつっていたかもしれない。

 「変な事言わないで下さい。あははは・・・・」

 「そうだよなぁ。今回の事件も解決した事だし、早くそいつを勧誘しに行かないとな」

 大地は机の上に足をのせそうになって、慌てて組み直した。

 「その人、男子なんですか?」

 「いや、まだ何も詳しい事は聞いてないけど」

 「そうですか・・・・」

 そう言う亜由美の顔を見て

 「やっぱり、嫌そうだなぁ」

 と、大地は言った。

 「まぁ、また雫みたいに非常勤なのが入るのも困るし、少数精鋭がいいのかもなぁ」

 「別に、そんなつもりじゃ・・・・」

 亜由美は小声で反論する。

 「何か言った?」

 「――いいえ」

 「あ、分かった」

 大地は指を鳴らした。

 「カッコイイ男子を連れてきて欲しいんだろ」

 大地が亜由美を横目で見る。

 「なっ・・・・!」

 どうしてそうなるのか!

 「あ。その顔は図星だな?」

 「違いますっ!」

 「隠さなくてもいいって」

 「先輩!!」

 真っ赤になって亜由美は立ち上がった。

 「わっ! そ、そんなにむきになるなよ。――冗談だって、冗談」

 「・・・・」

 亜由美は精一杯、抗議の意を表明した。

 「はは・・・・。ごめん、ごめん」

 大地は亜由美をなだめながら

 「そんなに怒るって事はひょっとしてもう、好きな奴いるとか?」

 と、腕を組む。

 「・・・・」

 「あ――いや、ごめん。冗談だよ!」

 再度の沈黙も抗議と受け取った大地が慌てた。彼はうつむいた亜由美の肩を持って機嫌を取る。

 「山川先輩」

 不意に亜由美は顔を上げた。彼女の頭に鼻をぶつけそうになって、大地が離れる。

 「な、何だよ?」

 顔を上げた亜由美の、真剣な眼差しに、思わず大地は視線を反らした。

 「先輩、こっちを見て下さい・・・・!」

 「あ、あぁ・・・・」

 大地は頭をかきながら、ぎこちない態度で亜由美を見る。 

 「何? あらたまって」

 大地の一挙一動を亜由美はじっと見つめた。そして、大地の目を真っすぐに見返して口を開いた。

 「先輩。私――」

 と、その時、教室のドアがガタンと音をたてた。

 「っ――!?」

 亜由美は出かけを言葉を飲み込んで、慌てて大地から離れた。

 だ、誰!? こんな時に!

 ドアを見る。その向こうで人影がギクリとしたのが分かった。一瞬の沈黙が訪れた後、潔くドアを開けて教室に入って来たのは

 「ドジっちゃったわ・・・・!」

 と、ニヤニヤして言った雫だった。

 「――雫、何してんだ?」

 大地は雫に声をかける。

 「え、別に・・・・」

 とぼける。

 「何だよ、お前。何か企んでんのか?」

 「失礼ね! 何も企んでなんかいないわよ」

 と、雫は憮然として言うと、亜由美に近寄って彼女の耳元で囁いた。

 「もうちょっとだったのに、おしかったわね〜」

 「え!?」

 ――亜由美、即赤面。

 「好きなんでしょ? 大地の事――」

 「そこ! やっぱり何か企んでるだろう・・・・!」

 ヒソヒソと話をする二人を見た大地が、侮しそうに指を指した。

 「僕も仲間に入れてくれよ」

 「亜由美さんに聞いてみれば?」

 雫は笑みを浮かべた。しかし亜由美は

 「ダメです! ダメダメダメ!! 絶ーっ対、ダメです!」

 雫の言葉にすかさず声を上げた。

 「それより大地、あなたちゃんと亜由美さんに謝ったの?」

 「え――」

 大地が固まった。そのまま、彼の視線が亜由美に向けられる・・・・。

 「何ですか? 謝るって!?」

 「あんたやっぱりすっぽかしたわね!」

 雫が大地を睨んだ。今度は亜由美が何なんですか? と、彼に詰め寄る――。

 「な、何でもないんだ、亜由美くん」

 大地はあとずさった。

 「そんな、ちゃんと謝って下さい!」

 「大地! 男らしくないわよ!」

 「い、いや・・・・、ゴメン!!」

 そうして、二人の女傑に追い立てられた大地は逃げ出したのであった。

 

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