はじめに
〜 どうして自転車なのか 〜

 平成11年5月1日開通した「瀬戸内しまなみ海道」。広島県尾道市と愛媛県今治市を島伝いにむすぶこの海の道の最大の特徴は、自転車・歩行車道が整備されていることです。本四架橋ほかの2ルートにはないこの点は、しまなみ海道をしまなみ海道たらしめる特徴であり、これを生かさない手はないものと断言できるでしょう。
 このルートはもともと島の住民のための生活橋としての色合いが濃く、自転車・歩行者道も島々に暮らす人々のために作られたものでした。しかししまなみ海道開通記念イベント期間中もっともクローズアップされたスポットの一つが、レジャー・観光スポットとしての自転車・歩行者道だったのです。自動車は橋の上で停車することは禁じられていますが(車を止めて降りている人はたくさんいたが)、自転車・歩行者道であれば、いくらでも足を止めて橋の上からの景色を満喫することができます海水面からの高さは来島海峡大橋が65m以上、因島大橋で50m以上あり、橋自体がまさに海上展望台としての役割を果たしているのです。そしてそこからの景色は日本の数ある景勝地のなかでも最上級のものだと言えるでしょう。文字通りの「しまなみ」を体感できるのです。
 海道の橋は吊り橋・斜張橋・アーチ橋とそれぞれ個性を持っていますが、そこからの景色もこれまた個性的で、無二の景色です。穏やかな海急流の海峡、船の往来が激しい海の交差点、などなどさまざまな表情でもって来る人を迎えてくれます。また時間によっても様相をかえ、潮の干満によって流れの向きや早さが異なったりもやのかかった朝焼け真昼の目のさえるような鮮やかなブルーの海と空、橋のシルエットを浮かび上がらせる瀬戸の夕暮れと楽しむことができます。雨が降っていても霧の合間にのぞく主塔がこれまた趣があるのです。
 しまなみ海道(自動車道)沿いで自転車・歩行車道が完備されているのは橋の部分だけで、各島内は一般道を使用することになります。時間はかかるけれど、その分じっくりいろいろな角度から橋のある景色を楽しむことができます。また途中で立ち止まって島の生活や文化とふれあうチャンスもできます。島の道路や展望台から見た橋は、本四公団は自然の景観と調和するようデザインしていると言っていますが、実に納得ができるます。緑茂るの山の間から渡されている鋼鉄の橋に何の違和感も感じません。むしろ今となっては橋がなければこの景色は寂しいものだろうと思えるほどです。だからできるだけ時間に余裕を持ってきて、いろいろと訪れていただきたいです。

 伯方島で生まれ育った私は、小・中学生の頃何度か大三島橋や伯方・大島大橋を渡ったことがあります。その時の記憶は、橋までの坂道が急でただただしんどかったというだけで、橋の上からの景色に感動する余裕はありませんでした。今自転車道は登りやすいよう傾斜が緩やかになっており(その分道のりは長くなってますが)、ギアの無い自転車でも比較的楽に橋までたどり着けます。私自身も99年秋のとある週末、自転車でいくつかの橋を渡ってみました。このとき渡ったのは来島海峡大橋(第一・第二)、大三島橋、多々羅大橋、生口橋の5橋ですが、このときの様子は「しまなみコラム」に掲載しているので詳細は省きます。とにかく感動しました。島育ちの私でさえも。特に開通したばかりの来島海峡大橋多々羅大橋巨大な橋の眺め、その橋から見た海の眺めともに実にすばらしかった。自動車では何度か通行したことがありましたが、その時とは全くと言っていいほど受けた印象が違いました。車で颯爽と海峡を横切るのも悪くはないのですが、自転車で風を感じながら景色を楽しみながら橋の上でしばらく休んだりしながらゆっくりと自転車をこいでいくのは最高に贅沢な時間の使い方といえるのではないでしょうか。今度時間ができたら、尾道から今治まで全橋を走破しようと思っています。



 「すばらしい」とか「感動した」とかありふれた表現でしか伝えることのできない自分がもどかしいのですが、是非一度自転車で、もしくはご自身の足でしまなみ海道をわたってみてください