2022年10月。江口は探していました。
〜江口とターキッシュ・デライトの一日〜
赤い。
これは、改造怪人の血の色。
今年もやってまいりました。
「クリスマスにかこつけて、なんか面白げな料理を思いついて試してぐだぐだになる年イチ企画」。ぐだぐだになるところまでがワンセット。
今年は、ターキッシュ・デライトとなりました。
夫「それは何ぞの必殺技か」
いいえ、違います。
トルコの伝統菓子でございます。
さて、ターキッシュ・デライトとはいったい何であるのか。
わたくしがこれの存在を知ったのは、吉田菊次郎著『今だから読んで欲しい 物語にでてくる楽しいお菓子の作り方』(朝文社)です。
『あしながおじさん』でジュディが頻繁に作るファッジ、『若草物語』のごちそうテーブルに乗るアイスクリームなど、名作物語から連想されるお菓子のレシピが載ってある本です。 まあ、かなり無理矢理なこじつけな感は否めませんが(そうそう「このお話と言えばコレ!」なダイレクトに結びつくような菓子なんてないでしょうに)。 その中で出てきたのが、『ナルニア国物語』に登場するという、ターキッシュ・デライト。 なにそれ、始めて聞くお菓子やないの。 |
この時点で、わたくしはまだナルニア未読。で、本に出てくるタキデラ(略すなよ)も、さして魅力的な見た目でもなく、あんまり気にせず毎日を過ごしておりました。
その後に機会ができて、ナルニアシリーズ第一作の『ライオンと魔女』を読みましたが、そこではタキデラは登場せず、瀬田貞二先生の超翻訳により『プリン』と訳されていた事実を目の当たりにし(先の吉田先生の本の中で、プリンと訳されていたことは知っていたが、まさか章タイトルになるほど場面に重大に関わってくるタキデラがまるごと別物に変えられているとは思い至らなかった)、その後『銀のいす』まで読んで、いま休憩中。
そうして月日は流れ、今年のクリスマス企画を考えて、あれこれ菓子情報にアンテナを張っていた頃。
また久しぶりにナルニアを読み返し、そこではたと気がついた。
ナルニア国物語は、4人の兄妹が不思議なタンスをくぐって異世界に迷い込んでしまう話。
その異世界は、白い魔女が支配していて世界を冬にしてしまっている状態。
春が訪れない、いつまでもいつまでも冬の世界。
季節が止まったままだから、クリスマスも来ない。
そんな世界で魔女は、迷い込んだ兄妹のひとりを、このタキデラで誘惑し、自分の虜にしてしまう。
そう、クリスマスが来ない世界。
クリスマスが来ない世界を支配する魔女が使う菓子。
最もクリスマスから遠い菓子、それがターキッシュ・デライト!
どうよ、この企画のコンセプトからかけ離れまくった菓子をチョイスする、江口のセンス!!
はい、始めましょう。
材料だけ見ればとてもシンプル。 そもそも伝統菓子=古典菓子、なんで、たいていどんなもんでもシンプルにおさまる。 本の解説によれば、『求肥か、柚餅子のような食感』とあるので、もうどうなるのか想像はできた。 しかし、問題は。 |
材料(吉田先生の本に依る) グラニュー糖 300g コーンスターチ 75g 水 レモン汁 ローズウォーター(香料) クリームタータ 食紅・粉砂糖(飾り用) |
‥‥なんぞ、クリームタータ。
嘘。クリームタータは知ってる。メレンゲ安定剤。
ブッシュドノエルの回で登場した。
あのときは、カルディコーヒーファームの製菓材料売り場で見つけたから、またそこで買ってきたらいいやー、と思ってた。
思ってたんだけど。
売ってないやん、クリームオブタータ!
カルディ3ヶ所ぐらい回ったけど売って無くて。カルディ以外の製菓材料売場も見たけど売って無くて。
仕方なくAmazonのお世話になろうかと思ったけど、ちょっと待て、販売元の共立食品でも、取り扱いラインナップから消えてるよ? 他のメーカーからも出品はあったが、そんな、100gとか必要じゃないんだよな。
さーて、困ったなあ、しょうがないから100g買おうかなあ、と考えてて。
『メレンゲ安定剤は、レモン汁で代用OK』という情報を目にする。
よっしゃ、レモン汁使ったれ。ちょうど、こないだ開封して早いところ使い切らなあかんやつがあるしな。
というわけで、クリームタータは諦めることにしました。
もっとも、今回クリームタータが必要な理由は、『砂糖を撹拌することで結晶化する、それを防ぐため』であり、メレンゲとは関係ないのであるが。
こんな時、江口ならなんて言うか、もうここの企画を長らくご覧になってる読者諸兄ならご存知ですね。はい、ご一緒に。
気にすんな!!
クリームタータ問題は片付いたとして、次に必要なのはローズウォーター。
何ぞローズウォーター。
むしろこっちこそ手に入らんわ。
もうこっちは、初手から諦めてた。なんか香料でいいや、と思ったので、かき氷シロップでも薄めて使おうって思ってた。
思ってるうちに夏が終わってシロップの入手ができなくなり、家にあったイチゴジャムを水で溶いたのが、冒頭の赤い汁です。
タキデラが江口の手によってどんどん魔改造されていきます。
改造人間ターキッシュ・デライト。必殺技のようだという夫の意見は、当たらずとも遠からずでしたね今思えば。
ではでは、作っていきましょう。
鍋にグラニュー糖と水75cc、レモン汁を入れて、115度まで煮詰める。 ‥‥この、115度が、なかなかならない。 あれやな、砂糖の熱変性ってやつやね。 詳しくは精糖工業会のサイトをご覧いただくとして。 115度で、単なる砂糖水がシロップとなり、フォンダンになります。 砂糖水がフォンダンになるために乗り越えなければならない壁、それが115度。 がんばれ。 がんばって115度になってくれ。 |
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別の鍋に、コーンスターチと水230cc、クリームタータではなくレモン汁を入れて混ぜ溶かす。レモン汁が入り過ぎかもしれんが、そこは最初に言ったように気にしない。 あれやね、水溶き片栗粉を作る要領やね。 だから泡だて器より、菜箸の方が混ぜやすかったかもしれん。 なんか地味に手間かかった。 |
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水溶きコーンスターチを火にかけて、糊っぽくなったら最初の砂糖水を入れて、弱火で絶えずかき混ぜながら混ぜあわせる。 ここでかき混ぜるときに、砂糖が結晶化しないように必要なのが、クリームタータ。 ‥‥砂糖の結晶化よりも、ダマで残るコーンスターチのほうがどうにかならんか。 |
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弱火でかき混ぜながら、110度になるまで煮詰める。 110度になるまで‥‥。 |
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‥‥ならん!! なんしに110度にならん。100度を超えない。 ええのん? ここでわざわざ温度指定してるってことは、110度でナニかが変わるんだろ? どんだけグツグツいわせても、100度を超えてくれんぞ? そうこうしているうちに、鍋底焦げてきた。 あああああもおおおおおお。 知らん!! |
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香り水入れてダーッと混ぜてバーっと型に流して、はい、もういいもういい! | |
残骸。 誰が洗うんだ、この鍋。 |
そうしてバットに流し入れたものを、一晩寝かせてできあがり。
の、つもりでしたが。
娘ちゃんが「食べたい、食べたい」と強く要求してくるので、まあわしもさっさと味見をしたいので今日中に食べることにしました。
一口サイズに切り分けて、できあがり〜。
レシピではここに、粉砂糖をまぶすとありますが、もうこれ以上砂糖はいらん。
試食した感想。
甘ッ!!
うん、分かってた。分かってたよ。
砂糖しか使ってないもん。
砂糖水固めたものだもん。
香料代わりにイチゴジャム使った、そんなイチゴのささやかな甘さなんか吹き飛ぶ、砂糖の塊。角砂糖舐めてんのと変わらん。
あとね、やっぱりコーンスターチがダマになってる。ぼろぼろ顆粒状のものが舌にあたる。
砂糖の結晶化とか、些細な問題だった。
食感は、うん、求肥とか柚餅子みたい。
もちもちして、ぜりーっぽい。
市販のみたらし団子の、タレの部分、あれがもうちょっとしっかりした感じ。
これなあー。
この過剰な甘さをどうにかするための、これ以上のアレンジのしようが無いんだよな。
砂糖しか使っていない、砂糖の量を減らしたところで、全体の完成量が減るだけで、味加減は変わらない。
これがスポンジだクッキーだとかなら、副材料に小麦粉やバターがある、そっちの分量を増やしたら相対的に砂糖が減るということはありうるが、コレは砂糖だけだ、どうしようもない。
日保ち的にはどうなんだろうなー。
言うてええか、早速持て余している。
どうやって消費しよう。一日一粒が限度だぞ、これ(なお、50片ぐらいにカットした)
スポンジだったら砕いてクランブルみたいにしたり、飴だったら溶かして別物に作り変えたりしたり、どうにか再加工できたりするもんだが、これは熱凝固させてるもんだから、もうどうも変化しない。いっそ、ドレンチェリーみたいな扱いにして切り刻んでフルーツケーキもどきにしてやろうか。それにしたって大量にできるけど。
皆様も作ってみようとお考えなら、それなりの覚悟をどうぞ。
以上を持ちまして、今年のクリスマス企画終了でございます。お付き合いありがとうございました。
さーて、来年はどんなトンチキが登場するでしょうか、オタノシミニー!