2025年10月。江口は辿り着きました。

〜江口とヴァシロピタの一日〜


このくるみは、只今よりそらまめになりました。

 さあ、今年もやってまいりました、江口梨奈がクリスマスにかこつけて訳の分からんことを始める恒例企画。今年は何にしましょう、とあれこれ思い悩んでおりました。

 思いつかねぇ。

 こうね、さして思い入れのあるクリスマス菓子ってのに思い至らないんですよ。そんなに詳しいわけでもないしさ。クリスマスプディングだとかパネットーネだとか、見知っているものなら「あ、作りたい」って思えるんだけど、20年やってると、もうネタが無い。いや、ネタ切れはとうの昔から起こしていて、赤飯炊いたりしてるんだけど。

 何度もいうが、江口はこの企画をたいへん気に入っており、当年の更新を終えたら即、翌年用のネタを探すほどである。しかし有名どころはたいてい手を出した。手を出してないのは、難しすぎて手に負えないと思えるものばかり。
 今年もいちおう、検索をしてみる。シュトーレン、スペキュラース、バクラヴァ等々、まだ作ったことのないクリスマス菓子はいくらでもヒットする。ヒットするが、あんまり心動くものもない。どうしたもんかな。クリスマスに限らず年末年始、12月の行事であるとか新年であるとかに検索範囲を広げてみようか。そうなると福井の水ようかんかな、いっそ伊達巻かな、とか考えておりまして。

 そう、『世界の』新年菓子ってものを、まだ検索したことがなかったな、と気付きました。
 クリスマスに絞って検索をしたことはあっても、新年を祝う菓子について調べたことはなかったな。
 というわけで出てきました。真っ先にヒットしたのは、ガレット・デ・ロワでした。

 ガレット・デ・ロワ。直訳すると、王様の菓子。正確に言うと新年ではなく、公現祭(イエスを東方の三賢人が認めた日)を祝うものであるが、時期的に年末〜年始のイベントであるので、『このシーズンの祝い菓子』の扱いなので、新年菓子にカテゴライズされてる(らんぼう)。
 『ガレット・デ・ロワ』の名前は知らなくても、丸いケーキの上に王冠が乗っていて、ケーキを切ると中に『フェーヴ(そらまめの意味)』と呼ばれる陶器の人形なりコインが入っていたりして、それの入ったピースが当たった人はその日王様になれる、という菓子はご存知の諸兄も多いことでしょうよ。
 わたくしなぞ、菓子を紹介する本を何冊か持っており、その中に必ずと言っていいほど出てくるポピュラーな菓子であります。レシピも持ってる。
 なので、作ろうと思えば作れる。

 が、こんなおフランスの本格祝い菓子、作る気力なんぞ出るわけねーや。
 アーモンドクリームの入ったパイ菓子である。パイなんぞ、素人が手を出していいもんじゃない。そりゃ、冷凍パイシートもあるんだけど、じゃあアーモンドクリームが簡単かよ、という話になってくる。

 ガレロワ(略すなよ)なぁ、悪くはないけど、しんどいなあ、とウィキペディアのページをうろうろし、下の方で見つけました、ヴァシロピタ。

 なんぞ。

 調べたところ、ギリシャの正月菓子。
 しかも、こちらも、『中にコインを入れて焼いて、切り分けたピースに入ってたらラッキー』な菓子であるとのこと。
 さらにレシピは、ガレロワよりもずっと簡単。
 そしてギリシャと言えば、今年は大河ドラマが小泉八雲ときたもんだ。

 よっしゃ!!!

 というわけで、今年の企画は、ギリシャのヴァシロピタに決定しました! 長かった! 辿り着くまでが長かったよ!!

 それでは改めて、ヴァシロピタの説明です。

 日本語Wikipediaには記事がなくて、英語版なんだけど、いまどき翻訳が普通に起動するので活用させてもらう。  

 ヴァシロピタとは、直訳すると聖バジルのパイ。実は菓子の名前がなんしに覚えられんで、『聖バジル』の名前が登場して、やっと覚えられた。
 で、聖バジルってのは誰かというと、これまたWikipedia情報ではあるのだが、キリスト教の聖人で、日本での正式な名前は『我が聖神父カッパドキヤのケサリヤの大主教大ワシリイ』。日本語Wikiではカイサリアのバシレイオスで項目になってるので、あとは各自でよろしく。
 この、『中にフェーヴが入ってる』てのは、ガレロワ含めキリスト教圏のいろんな祝い菓子あるあるなんで、たぶん『そらまめ=胎児』とか『隠れている御子』とかの暗喩なのかと思っていたが、ヴァシロピタの場合は、「ローマが包囲されたとき、解放のために聖バジルが各家庭から身代金で金銀財宝を集めさせたけど、なんやかんやで要らなくなって、じゃあ返そっか、ってなったけど、どれが誰のか分からんくなったんで、その金銀財宝をまとめてパンに混ぜ込んで焼いてみんなに分配したら、ぜんぶもとの家に戻った」奇跡を元とする説もあるらしい。おもろい。

 さて、ヴァシロピタ作りにとりかかりましょう。

 これもまた、伝統菓子あるあるで、何を以て正しいレシピとするかは不明。家庭によってはパンだったりケーキだったり、んもう定義バラバラ。これはもう、日本における雑煮と思うとけばいい。家庭ごとに味がある。
 今回は、検索していちばんにヒットした、株式会社タバタのオリジナルレシピを参考にさせてもらう。

【材料】

無塩バター 100g
アーモンドプードル 40g
薄力粉 110g
グラニュー糖 100g
はちみつ 30g
シナモン 3g
ベーキングパウダー 3g
くるみロースト 50g
全卵 110g
オレンジの皮 1個分

粉砂糖(飾り用) 適量
   ベーキングパウダーが重曹だったり、グラニュー糖が上白糖だったり、オレンジじゃなくてレモンだったり、
無塩バターが有塩バターだったり、
もっと言うならバター足りなかったんで追加で製菓用マーガリン持ってきたけど、そこは気にしない。
ほら、家庭の味家庭の味。
いちばん難儀したのが、オレンジの皮の入手。いまオレンジ高いしさぁ。
風味付けだろうから、まあオレンジ香料だったり、オレンジキュラソーだったり、オレンジジュースだったり、何だったらみかんでもいいんじゃね? と色々考えていて。
ネーブルオレンジが158円で売られてたのと、ポッカレモンが168円だったのと、S&Bのチューブゆずが238円だったのと、どれが一番安上がり(後々の使い途も含めて)かと考えて、結果ポッカレモンを買ったのだが、
冷凍庫にレモンあったのを家に帰ってから思い出した。ポッカレモン未開封。

あと、いつも行くスーパーマーケットの酒売場から、ケーキマジックシリーズ消えてた。今後、ブランデーやらラムやら必要になったら困るなあ。

そうそう、もひとつ困ったのが、フェーブの準備。
ヴァシロピタでは『アルミホイルにくるんだコイン』であるそうだが、そんな伝統菓子がアルミホイルなんぞ使うわけがない。なので本当にコインそのものを入れるのであろう。が、ほんまにコインをそのまんま入れたら不衛生極まりない。
なのでガレロワでは、専用の陶器人形が出回っているのだろうが、それにしたって食品ではない異物である以上、あんまり入れたくない。
じゃあ代わりに、ほんまもんのそらまめでも入れてやろうかと思ったが、そんな豆ひとつぶのために時期でもないそらまめ買うのもなあ。
というわけで結論が冒頭の、『刻みくるみ、一個だけ刻まない』に行き着きました。

 作り方は、スタンダードなバターケーキです。
 材料と分量を見ても、まあ、シナモンとオレンジが特徴ではあるが、菓子香料としてよくあるものですね。

 もっとも、この参考にしたレシピが、日本の製菓用ナッツ・堅果類販売卸会社のレシピであって、日本人の口にとても合うように、日本人の家庭で再現できるように組み立てられているのであろう。
 ギリシャって、とにかく菓子が甘いらしい。
 ギリシャやトルコや、とにかく地中海へん? あのへんって、ほんま、菓子が甘いイメージ。イメージと言うか、事実。以前(2022年)に作ったターキッシュ・デライトも、甘くてどうしようかと思った。気候的に、滋養強壮が求められているらしい。
 ギリシャで有名な菓子には他にバクラヴァやカタイフィがあって、バターだけでなくナッツたっぷりの、油脂分ぎとぎと、シロップぎとぎとと、んもう見るからに甘そうで。昔、安堂友子のマンガで小泉八雲を紹介しているときに、パステリを作ってみて「歯が溶けそうなぐらい甘い」って言ってた。
 もっとも、「じゃあ菓子が甘くない地域ってどこよ」って考えたとき、思いつかん。日本人の「甘さ控えめ」が少数派なんだよな。
 上記のレシピは、粉:砂糖:油:卵≒1:1:1:1:の、よくあるバターケーキではあるが、ここにプラスしてアーモンドプードルとくるみと蜂蜜という、ギリシャへの譲歩がうかがえる、けど、ここが目一杯なんだろうなあ、と考えさせられる。

 んじゃ、作ります。

(1)バター・砂糖・はちみつをよくすり混ぜる。
(2)溶き卵を4〜5回に分けて、都度、よくまぜる。レモン汁も加える。
‥‥というのが、バターケーキにおける一番のキモであるが、わしはここをいつも失敗する。
理由は簡単。
「卵を溶くのに、別の器出すのめんどくせー」で、ボウルに直割りするからだ。

ま、電動ミキサーで強引に混ぜることで、最終的にはなんとかなるのだが、このそぼろ状になった途中経過を見るたびに「てへり」て思う
(※綺麗に混ざると、マヨネーズ状になる)。
学習はしない。
(3)小麦粉・重曹・アーモンドプードルをあわせて粉ふるいを通したものと、刻みくるみを合わせて、(2)の生地に混ぜる。
しまった、焼き型に入れた写真を撮り忘れた。

(4)170℃のオーブンで40〜50分焼く

であるが、我が家はオーブンの温度が信用ならんので、200℃で10分ぐらい焼いたのち、焦げ防止のアルミホイル乗せて2時間ぐらい焼いた。

そうしてできあがったものがこちら。
なんかもう、フェーヴの片鱗が見えてんじゃないかなあ、と不安になってくる。
仕上げに粉砂糖をかけて、
完成でございます!

 それではさっそく、切り分けて頂きましょう。



 片鱗が見えた場所に、果たしてフェーブは入っているのでしょうか。

 
 
 残念、入っていなかったです。次のピースに期待しましょう。

 さて、肝心の味ですが。
 いうてええですか。

 めっちゃうまい。

 いやー、今回、大成功でしたわ。シナモンとレモンの香りがする、バターたっぷりナッツたっぷりの、高級ケーキの味がする。
 でもって、これ、バターケーキだからしばらく日持ちするよな。明日も食べよう。明後日も食べよう。
 ありがとうタバタのレシピ。タバタのナッツ買ってなくてすんません。

 というわけで、大成功に終わりました今回の企画。
 どうぞみなさまもぜひ。わしはもう、気が済んだので。

 おまけ。
 子らにも味見させる。

 

 甘いバターケーキの上に、ホイップクリーム。更にギリシャに近づいてみた。
 この前日が娘さんの誕生日パーティだったので、バースディケーキ作ってて、クリームが余ってた。
 この時点で、夜の8時ぐらい(晩ごはんあと)であり、こんな時間になんちゅうもんを子らに食べさせてるか。
 ケーキ本体は極薄くにしたところが逃げ腰。

 

 

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