音速の公子




人類の音速への挑戦が始まったのは、冷戦の真っ只中であった。
人類ではじめて音速の壁を越えたのはアメリカ空軍パイロットである。当時、アメリカ軍は音よりも速く飛ぶ戦闘機を開発していた。この戦闘機はミサイルのような形状をしており、飛行機と呼ぶにはほど遠いフォルムの代物であった。しかも、単体で音速を超えるのではなく大型の輸送機より射出されるという方式で飛んでいた。現在の戦闘機は、ほとんどのものが単体で音速の壁を破ることができる。性能の高いものでは簡単に音速の三倍で飛ぶものも存在する。
このように人類は飛行機という道具を使い音速という超高速移動を可能とした。しかし、アメリカンコミックスのヒーローの中には超高速移動を自らの肉体を用いて成し遂げてしまう者がいる。それはクイックシルバーである。
彼はX-Menの仇敵マグニートの息子であり、亜高速(約800Km/h)で走ることができるミュータントである。走るだけのみならず、彼の動きは一般人の目で捕らえることができない。一瞬にして銃をばらしてしまうことも可能である。亜高速で走ることができるのであるから、手の動きなどは800Km/h以上のスピードで動いているに違いない。目にとまらないスピードで銃をばらすなど他愛もないことだ。
今回考察してみたいことは、「亜高速で走る」ということである。
そもそも、走るという運動はどのような運動であろうか。簡単に言えば足で地面を後ろにけって体を送り出すことで前に進む。足で体を前に送り出す力とスピードが大きいほど速く走ることができる。これに加えて空気抵抗以上の力で前に進まなければならない。空気抵抗は人間が100mを10秒で走った場合、約2.8kgとされている。
まず一番に気になることはこの空気抵抗である。空気抵抗は改めて説明する必要もないだろう。この空気抵抗があるおかげで上空高くから振ってくる雨粒が痛くないのである。上空からものが降ってくる場合、衝突するときのエネルギーは(質量)×(速さの二乗)÷2で表される。要するに落下速度が速ければ早いほど、衝突エネルギーは大きくなる。では何故雨粒は痛くないのか。この落下速度を減少させている要素が空気抵抗である。空気抵抗は速さの二乗に比例して大きくなり、早ければ早いほど空気抵抗は大きくなるのだ。つまり、雨粒ほど質量の小さいものは加速すればするほど空気抵抗が大きくなり、落下速度が小さくなる。すると、必然的に衝突エネルギーは小さくなり当たっても痛くないのだ。
ここで、考えてほしいことはクイックシルバーが走った場合の空気抵抗である。先にも述べたが空気抵抗は早さの二乗に比例する。人が100mを10秒で走った場合の空気抵抗が約2.8kg,100mを10秒で走るときの秒速が10m/s,800km/sを秒速に換算すると222.22m/sであるから、クイックシルバーの場合、走る時に発生する空気抵抗は(2.8kg)÷(10m/sの二乗)×(222.22m/sの二乗)で表せる。これを計算すると………なんと空気抵抗が1382.69kg!約1.3tもの空気抵抗が加わっていることになる。これはどういうことか。簡単に説明すると、クイックシルバーは亜音速で走るために空気抵抗1.3t以上の力で地面を蹴って走っているのである。はっきり行って驚きである。怪力ミュータントとしてランキングしてもよいだろう。
ここで次なる疑問が持ち上がってくる。気がついた読者もいるかもしれないが、このような力で地面を蹴ると約8秒で上空500mまで空高く舞い上がってしまうのだ。例え前に飛び出したとしても、どう足掻こうと空に浮かび上がってしまう。前に進もうとすれば何らかの形で体を地面に固定しておくことが必要となってくる。これでは、クイックシルバーは「走っている」のではなく、「ジャンプしている」若しくは「滑空している」ことになってしまう。果たして彼はどうやって地表を走ることができるのだろうか。
しかし、この疑問はいとも簡単に解決できた。何を隠そう、彼は磁界の帝王のご子息なのだ。彼の父親は磁力で飛行することができる。少なからず彼にもこの能力が備わっていて、父親が空中で停止するかのごとく地表に留まり続ける事ができるのではないだろうか。そうすれば何の問題もなく飛び上がらずに亜音速で駆け回ることが可能となってくる。さすがアコライツに持てはやされるだけはある。
思う存分駆け回ってくれクイックシルバー!!
 
 
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