3月の風、5月の風

 三月の風と四月の雨が五月の花が咲かせる
  March winds and April showers bring forth May flowers.

イギリスのことわざだ。5月が、いっそう美しくすてきに感じられる。


 「五月の風をゼリーにして持って来て下さい。」

 毎年5月になると24歳で逝った夭折の詩人、立原道造の遺した言葉を思い起こす。5月の風のゼリーは、どんな色でどんな味だろうか。透明感のあるさわやかなものであったに違いない・・・。

 ネットで確認してビックリ。5月の風のゼリーは、立原が亡くなる一週間前に、恋人水戸部アサイにねだったのではなく、見舞いに来ていた芳賀檀と若林つやに向かって言ったようだ。 このときのことを若林つやは、「野花を捧ぐ」(昭和14年5月発行の四季立原道造追悼號)に記している。

五月のそよ風をゼリーにして持って來て下さいといひ、非常に美しくておいしく、口の中に入れると、すっととけてしまふ青い星のやうなものも食べたいのです。

 風でなくそよ風だったんだ。さらにゼリーの具体的な説明まである・・・!

 「すっととけてしまふ青い星」 青い星と言えば、リゲルやシリウス。ともに冬の明るい星であるが、「すっととけてしまふ」とつながらない。

 ふと浮かんだのが、Blue Comet、青い彗星。すっと消えていく彗星はぴったりではないだろうか。

 1939年(昭和14年)3月29日、3月の風の中、立原道造は彗星のように天へと消えた。

(2013/5/20、TAKA)

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