by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

 「るり子にこんな力があったとはねぇ」

 「るり様、素敵でしたわ」

 蕗子と魅智子は、四人だけの秘密となったるり子の力に対し、そう言い残して帰っていった。同様に帰ろうとしている洪介を見て、るり子は彼を呼び止めた。

 「先輩。実は、蕗子達に内緒で相談があるんです」

 そう切り出し、彼女は毎日のように見る夢の事を彼に話した。

 「なるほど。恐らく予知夢だろう。僕もこの前夢を見たよ。この街、いや世界が黒い影によって滅ぼされた夢だ……」

 洪介は腕を組んで深刻な顔つきをしている。

 「それじゃあ、わたしの夢と同じじゃないですか!」

 彼女の叫び声に洪介は静かにうなずいた。そして彼は恐ろしいことを言った。

 「近いうちにこの学校に何かが起こる……」

 

 次の日の昼休みのこと。穏やかな陽射しが差し込み、教室はぽかぽかと陽気な雰囲気に包まれていた。ちょうどそんな時であった。突然運動場から強い振動が発せられたのだ。そしてそこに巨大な黒い影が現れたのである。しばらくして揺れは止まったが、教室の中の生徒たち、いや全校生徒はみずからを襲った大きな地震と黒い影にパニックを起こしていた。それは先生たちも例外ではなかった。

 生徒たちが一斉に教室から運動場へと顔を出す。ちょうど影は縮んでいき、中央で人の形へと変化していた。それがぱっと散り、そこに一人の人間の形をしたものが現れた。いつのまにか手にマイクを持っている。

 一人の生徒がそれに気づいて声を上げる。するとそれにつられて、全校生徒が運動場の真ん中に立つ一人の人間に視線を浴びせた。

 「聞き給え」

 そいつがしゃべった。しかも言葉が通じる。教室は一気に騒ぎ出した。

 「静かに。あー、我々は遠くの星から来た。そしてこの豊かな星を改造し、我々の住みよい星とする。構わんかな?」

 そいつはそう言ってニヤリと笑う。校舎から誰ともつかぬ声が聞こえた。

 「うるさい、帰れ帰れ!」

 それがきっかけとなって『帰れ』コールが始まった。そいつは目を閉じたまま(?)聞いている。そして静かに右手を上に挙げる。

 『ドォーン!』

 凄まじい地鳴りと揺れ、それに音。校舎の一階にある調理室が爆発したらしい。生徒たちは息をのんで静まり返った。

 「仕方のないやつらだ……」

 そいつは呟くように言うと、姿を変え始めた。顔が裂け、巨大な頭が現れた。手足も巨大化し、獣のような鋭い爪と長い毛。太い尾もある。サイとライオンを掛け合わせたような、大きな角を持った怪物である。女子生徒の悲鳴と男子生徒のどよめきが混ざる。逃げ出す者もいた。

 先ほどの爆発音により、学校の周りにゾロゾロとやじうまが集まってきていた。警察がロープを巡らせており、正門の辺りには特攻隊が組まれている。

 その怪物は咆哮の後、校舎に向かって突進してきた。地響きがもの凄い。生徒たちはみな逃げ出した。怪物がぶつかる。その衝撃で校舎の一つはほぼ全壊だ。土煙がもくもく立ち上る。

 校舎内では、恐怖に顔をこわばらせた生徒が逃げ惑っている。るり子たちも例外ではなかった。生徒たちの波に乗り、うまく北門に出られた。魅智子と蕗子も無事脱出でき、るり子と会った。三人がほっと息をついた時、

 「こっちだ」

 と声がかけられた。洪介だ。るり子たち三人は彼の後について避難した。直後、怪物は再び校舎へとその巨体をぶつけたのだった。

 

 

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