by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

  第一章  出発

 

 カーテンを開けると、明るい日の光が差し込んでくる。

 一人の少女は、そうして大きく息を吸い込みながら伸びをした。

 「んー、今日もいい天気だ」

 そう呟くと、部屋を出た。

 彼女の名前は、常盤るり子(ときわ・るりこ)、十五歳と六ヶ月。

 並野街にある並野高校に通う一年生。そして、夏休みは昨日で終わり、今日は始業式が行われる。

 るり子は冷たい水で顔を洗うと、鏡の中のまだまぶたの重い目をした自分を見て、これまた眠そうに大きな欠伸を落とした。

 それから、そそくさと朝食を済ませると、

 「行ってきまぁあす」

 と、家を出る。時計を見ると、始業十分前だ。しかし、彼女は急ぐ様子などなく、のんびりとした歩調で歩いている。それもそのはず、るり子の家は学校のすぐ隣なのである。従って十分あれば余裕を持って登校できるのだ。

紺のブレザーに身を包み、学生カバンを片手に、るり子は眠たそうに学校の校門を通っていった。

 

 

 見事な秋晴れの中、始業式が終わり、放課後になった。るり子が校庭をとぼとぼと帰っていると、後ろから声がかかった。

 「るり子。なにしょぼくれてんのよ」

 幼なじみの友人、菱川蕗子(ひしかわ・ふきこ)だ。そして、彼女の背後からちょこっと顔を覗かせる人物、彼女はこの高校で仲良くなった友人の軒下魅智子(のきした・みちこ)であった。

 「休み中、昼まで寝てたから朝はつらいわ……」

 るり子はそう言ってそのまま語尾を欠伸に変える。友人二人も同感らしい。

 「ところで、今日暇?」

 蕗子がふいに尋ねた。るり子が今日の予定をあれこれと考えているうちに、もう家の前まで来てしまった。

 「ゴメン。今日はちょっと用があるんだ」

 両手を合わせると、蕗子の目つきが変わった。その目にるり子はドキリとする。

 「ははぁん。デートでしょ。それじゃあ仕方ないわ」

 蕗子はそう言って肩をすくめた。そして、友人二人はバイバイと手を振り、るり子と別れた。るり子はしばらく二人の後ろ姿を眺めていた。

 「ただいまぁ」

 るり子が帰宅すると、その声を聞いて、奥の部屋から母親が顔を覗かせた。口にはせんべいが収まっている。るり子はその様子にあきれたようにため息をもらしてしまう。

 「もう、ダイエットするって言ってたんじゃないの?」

 プイと顔をそらせて自室のある二階への階段を上る。

 「おせんべいくらいいいじゃないのよ」

 そう答えて、母親はバリバリとせんべいをかみ砕いた。

 自分の部屋に入ると、るり子はカバンを置いて、ベッドに横たわる。はぁーと何やら思いつめたようなため息をもらして、静かに目を閉じた。

 

 

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