by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

 一方、蕗子たち二人は帰るふりをして教室の外からるり子と洪介の会話を聞いていた。

 『せ、先輩……! だ、ダメですよ。そんなところさわっちゃ……』

 『大丈夫だよ。見つからなきゃ』

 るり子の焦ったような声、そしてそれを落ち着かせるかのような洪介の口調。蕗子はこの一言を聞いてドキリと胸を鳴らした。

 「ち、ちょっとるり子ったら何してんのかしら……」

 隣の魅智子の様子を伺いながら呟く。魅智子は顔を真っ赤にしていた。

 「もしかしたら……るり様……。いやですわ、蕗子さん。変な事考えてるんじゃありませんの?」

 「しっ」

 二人は耳を澄ました。

 『もし見つかったら、先輩が責任を取ってくださいよ』

 『はいはい』

 「責任って……なんの責任かしら……」

 蕗子はドキドキする胸をおさえながら友人の顔を見る。魅智子は何かを否定したいのか、涙を浮かべた顔を必死に横に振っていた。

 蕗子はそっとドアを開けて中を覗いた。思わず生唾をゴクリと飲む。

 カーテンがひかれ、奥のベッドを隠していた。

 「ま、まじなのかしら……あの二人……」

 蕗子はゆっくりとドアを閉めようとした。

 ガチャリ。

 「しまった……!」

 あと一歩というところで思わず力が入ってしまったのだ。ドアの閉まる音に、中は慌てているようだ。

 『や、やばい』

 『先輩、早く……隠して……』

 魅智子はすっくと立ち上がった。

 「わたくし、もう我慢できませんわ」

 ドアを開けて中へ入る。蕗子も彼女につづいた。

 「るり様、はやまっちゃいけませんわ」

 魅智子はかけよってカーテンを開ける。るり子だけがベッドにいた。

 るり子は二人の顔を見ると、ほっとため息を一つついた。

 「なぁんだ。蕗子にミッちゃんか……。よかった」

 「よくないわよ。何やってたの、先輩と」

 蕗子は少々興奮した様子で尋ねた。

 「なに顔真っ赤にしてるのよ。何って、ゲームやってただけよ」

 そう答えてるり子が笑うと、ベッドの下から洪介が出てきた。

 「保健室のテレビを勝手に拝借してね……」

 そういえば、ベッドの横の奥の方にテレビが押し込まれていた。

 「良かったですわ。るり様、ピンチ脱出です!」

 魅智子はまたるり子の手を両手で握っている。一方、蕗子は彼女のとぼけた言葉に呆れていた。

 「『ピンチ脱出』って、なんなの……?」

 「とりあえず、みんなもやるかい? このゲーム」

 洪介の勧めで、しばらく四人はテレビゲームに興じていたのだった。

 

 

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