by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

 その日、体調も回復したるり子は無事帰宅した。そして夕食をとった後、自分の部屋でベッドにもたれて雑誌をぱらぱらとめくっていた。

 しかし、先ほどからずっと同じページを開いたままだ。るり子は、学校での頭痛のことを考えていた。

 (あの時、何か光のようなものが見えたのよね……)

 るり子は思い付いたように誰かの名前をそっと呼んだ。

 「チャム、居る?」

 『おかえり』

 そんな声が聞こえたかと思うと、すぐにるり子の近くで光の輪がくるりと描かれ、光のかたまりが現れた。よく見ると、人の形をしている。

 「あなたなら私の頭痛の事、何か分かるかなぁって思って」

 『うん、分かるよ』

 「ホント?」

 チャムはもちろん、と大きく首を縦に振った。彼は背に透明の羽を持っている、それを羽ばたかせて自由に宙を舞うこともできる。そうして動くたびに、キラキラと美しい光の軌跡が描かれるのだ。

 簡単に言うと、彼は妖精だ。るり子がまだ幼い頃、近所の草むらで傷ついて動けなくなった彼を見つけ、助けてあげたのである。それ以来、彼はるり子の側にいるようになった。

 『君がボクを助けてくれた時、正直言って驚いたよ。ボクらの姿を見られる人間がいるってね』

 「どういうこと?」

 るり子がそう尋ねて首をかしげると、チャムは小さく笑った。

 『昔々人間が生まれたての頃、人間は、ボクらの仲間達とも仲が良かったらしいんだけど、だんだんボクらの姿を忘れていったんだ。でもるり子はボクの姿を見ることができた。つまり、君は昔々の人間の力があるんじゃないかなと思うんだ』

 「昔の人間の力……?」

 るり子は手のひらを上に向けて顔の前にかざす。そこへチャムはゆっくりと降り立った。

 『そう。ボクの姿が見えるようになったきっかけとかないの? そのきっかけのせいで眠っていた力が蘇ったってことだよ、きっと』

 「そっか。うーん、チャムを助けたのは……多分小学生の頃だったっけ……」

 るり子は少し姿勢を変え、昔の記憶をたどる。読んでいた雑誌がぱたりと閉じた。小学校時分なんて九年も前のことだ。そう簡単に思い当たる記憶が見つかるはずもない。るり子は目を閉じ、頭の奥の暗闇の中でさらに時間をさかのぼった、

 その時、階下から母の声が飛んできた。夕食の支度ができた、という知らせだ。るり子はとりあえず食事を取ることにした。

 

 

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