by鉛 筆吉

  −異界からの侵略者−

 

 

 

 「チャム、分かったわ!」

 食事を終えて自分の部屋に戻って来たるり子は入るなりそう叫んだ。

 『思い出したの?』

 光の軌跡の中からチャムが現れる。

 「お母さんに聞いてみたのよ」

 チャムの質問にそう答え、るり子は九年前のきっかけを話し始めた。

 

 その日、母はるり子の姿を見て驚き、すぐに病院へ連れていった。るり子の服が真っ黒に焦げてしまっていたのだ。雷雲が不気味な音を響かせているような暗い日だった。医者の話ではどうやら彼女は雷に打たれたらしい。しかし、るり子の体から全く異常が見付からなかったためにそれは推測、それもかなり現実離れした、に過ぎなかった。

 「……ということらしいの」

 るり子は少々興奮を残して話を締めくくった。そして目を閉じて、ふぅと息をはいたその時、彼女の頭の中で何か強烈な光が放たれた。

 「い……痛い! 頭が……!」

 るり子は顔をしかめ、両手で頭を押さえた。そのままその場で足を折り、崩れる。彼女の髪の色が徐々に色褪せ、赤茶けた色に変わっていく。さらに彼女の体が光に包まれた。弱く淡い光だ。

 そして頭痛はすぐにおさまった。るり子は拍子抜けしたような顔を上げた。

 「頭は痛くなくなったけど……、なんだか変な感じ……」

 『力だよ。昔々の力が蘇ったんだ』

 チャムが明るい声でそういった。るり子は自分の両手を見つめ、そして勉強机の上にあった鉛筆立てに目をやった。

 力……?

 るり子がぼんやりとそう思うと、その鉛筆立てがフワリと宙に浮かんだ。そしてゆっくりと彼女の方へ近づいてくる。るり子は手を伸ばし、そっとそれを掴んだ。

 「何? コレ?」

 るり子は信じられないといった様子で、手に取った鉛筆立てを見つめている。

 「まさか……」

 今度は壁にかけてあった鏡に目を移す。そしてこっちに来るように念じると、その通りに鏡は壁から外れるり子の元へとゆっくり飛んできたのだ。

 「うそ……。信じられない……、わたし……」

 るり子はなんだか恐くなってきた。

 『恐がらなくても大丈夫。落ち着いて、力をうまく操るんだ』

 チャムがアドバイスを送る。

 「そんな操るって言ったって……」

 るり子は手元にやってきた鏡を覗きこんで、さらに驚いた。彼女の髪と瞳の色が変わっていたのだ。漆黒の髪は赤茶けた色に、そして瞳の色は深い、そう、まるで吸い込まれそうなくらいの黒色をしているのである。

 「これも、力のせい……ってこと?」

 『たぶんね。力を抜けば元に戻ると思うよ』

 チャムはそう言って宙を華麗に舞っている。なんだか無責任な言い方だな、とるり子は恨めしそうな視線を送った。そして再び鏡の中の自分と向き合った。ゆっくりと手を離すと、鏡は落ちることなくその場にフワフワと浮かんだ。

 力を操るのね……。

 るり子はじっと視線を鏡に送り続ける。鏡はかけてあった壁に向かい移動を始めた。そして元の位置に戻り、何事もなかったかのようにその場にとどまった。

 「やった……。出来たわ……」

 るり子は笑みを浮かべ、ほっとため息をもらす。すると、彼女は元のるり子に戻った。その変化は彼女自身にも感じることが出来た。

 どっと疲れが体にのしかかってくる感じだ。るり子は立ち上がって、少々よろめきながらではあるが、壁の鏡の所へ行き覗き込む。髪、瞳とも元の色に戻っていた。

 「ね、チャム、これって凄いことよね」

 先ほどまでの恐怖心もなくなったようだ。るり子は嬉しそうに微笑んでいる。それに答えるかのようにチャムも笑顔を見せた。

 

 

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