「開かれた開かずの間」     by 上山 環三

 

 電話のベルが鳴って、宿題をしていた亜由美に

 「亜由美ぃ、電話だぞー」

 と、言う父の声が聞こえてきた。

 誰だろう。京子かな? 

 無意識に時計を確認する。

 「亜由美―!」

 「はぁーい」

 慌てて返事する。階段を掛け下りると

 「桐咲さんだそうだ」

 「え!?」

 神降 慶一郎(父)はそう言うとアトリエに引っ込んだ。

 遥が? 今頃なんだろう? 

 亜由美は腹をくくって電話に出る。

 「もしもし・・・・?」

 「・・・・、・・・・」

 微かな息遣いが聞こえた。それだけでただ事ではないと亜由美は感じて、受話器を抱え込んだ。

 「遥なの? いるんでしょ? どうしたの!?」

 その時、電話の向こうでガラスの破裂するような音が聞こえた。同時に、遥の耳をつんざくような悲鳴が受話器からこぼれる。

 「遥ッ!」

 「あ、亜由美・・・・! 助けて――!!」

 やっと、亜由美の問い掛けにか細い声が応えた。そしてその声は震えている。

 「遥、しっかりして! 今どこにいるの!?」

 「・・・・学校。・・・・亜由美、お碩い・・・・。彼女がっ――!」

 その時、また派手な破裂音が聞こえた。しかし、いやぁ! と言う遥の悲鳴は最後まで聞こえなかった。

 「遥!?」

 プツンッと、音がして電話は切れたのである。

 「な・・・・」

 ――彼女。遥の『友達』の事だろう。とうとう彼女が遥にプレッシャーを与え始めたのか?

 でも――、と亜由美はその考えにブレーキをかけている。遥と彼女は強い想いで結ばれたている。そう簡単に彼女が遥に行動を起こすとは思えない。助けて――、と、言うのは彼女も含めてと言う事のように思えた。

 とにかく麗子先輩に電話しなくっちゃ! 

 亜由美はダイヤルを回した。ジーコ・・・・と、ダイヤルが戻る暇がもどかしい。

 しばらく呼び出し音が鳴り響いて、運よく麗子が出た。

 「先輩! 神降ですっ」

 「あぁ、亜由美ちゃん? よかった、かけようと思ってたとこなの」

 「じゃ、先輩、学校で会いましょう!」

 「えぇ? ――あ! 何かあったの?」

 「遥が、遥から電話があったんです」

 亜由美は電話の内容を一気にしゃべると

 「私、これからすぐ学校に行きます。それじゃ」

 と、一方的に電話を切った。

 「・・・・」

 受話器を持ったままで、麗子は唖然としていた。彼女の家から学校まで、自転車でとばしても三十分はかかるのである。

 とりあえず麗子はすぐに大地に電話した。確か彼の家は、学校の近くだった。大地に集合をかけた後、すぐに麗子は動きやすい服に着替えて家を飛び出た。

 時刻は八時半。――学校に着くのは九時過ぎくらいになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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