「開かれた開かずの間」     by 上山 環三

 

 東雲 麗子にはとある委員会の定期会議に出席する前に、確認しておきたい場所があった。

 ――校舎から離れて、古い建物が建っている。それは倉庫として今でも使われているが、北側のいちばん奥の一室だけは使用されていない。

 麗子はその使われていない倉庫の前にいた。そこにはいつもは誰も近付かない。向きが悪いのか日の光も直接に入ってこないそこは、薄闇をいつも纏っていた。

 「・・・・まいったわねぇ」

 思わず、そう呟いていた。そこは薄い期待に反して、麗子の思っていた通りのありさまだった。わずかに開いた、開くはずのない扉からは真っ黒の室中が覗える・・・・。

 ――ここは三宅先輩が封印した場所! まだ二年も経ってないのに、もう封印が解かれたって言うの・・・・!?

 麗子は唇を噛んだ。信じられない気分だった。

 三宅 弘一ほど完壁な術を施す人物を麗子は知らない。彼は麗子にとって封魔術の師である。その三宅の封印なら少なくとも五年はもつはずだった。

 それが――。

 今、その場所――、通称『開かずの間』は、何の変哲もないただの古い倉庫と化していた。錆びた扉を引いて中に入った麗子は、がらんどうになったその中を見回した。

 ここに封印されていた『霊』は、すでに解き放たれてしまったのだ・・・・! そこに、何が封印されていたのか麗子は今すぐに思い出す事ができない。彼女は再び唇を噛んで、まるでそこに『開かずの間』の封印を解いた人物がいるかの如く、憎々しげに空間の一点を睨んだ。

 そして、無駄だとは思いながらも何分ほどか霊気を探って、彼女は諦めてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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