「開かれた開かずの間」 by 上山 環三
――順風高校には風紀委員会がある。 この風紀委員会は校内秩序の乱れを正し、健全な高校生活を送る為に設置されたものである。 実は、この風紀委員会には裏の組織が存在すると言う。 表の風紀委員会とは全く別の――、言うなれば裏風紀。 それは、順風高校に起こる様々な霊障を解決する為の、プロフェッショナルが暗躍する委員会だ。 彼らの存在を知らない生徒はいない。彼らとコンタクトしたい生徒は、あの生徒会の意見箱に手紙を入れるか、旧校舎一階の、古びた掲示板にその旨を書いておくといい。そうすれば数日後には何らかのかたちで返事が来る。 そう。 裏風紀――、通称『封鬼委員会』は実在するのである。
教室に入ると 「遅いなぁ、麗子さん」 と、声がかかった。委員会のメンバーで彼女の後輩、二年生の山川 大地である。彼は机の上に足をドカッとのせて頭の後ろで手を組み、麗子を仰いでいる。 「こぉら、机の上に足をのせないの」 「あ、いけね」 大地はあまり反省の色も見せずに座り直して 「雫の奴、シビレ切らして帰っちゃいましたよ」 と、言った。 ここは旧校舎の一室。封鬼委員会の為だけにあてがわれている教室だ。そして、大地の言う通りいつもならば定期会議は既に始まっている時間に、麗子はやって来た。 「そう、・・・・仕方ないわね」 急いで来た為に乱れた呼吸を整え、麗子は 「遅れてごめんなさい。ちょっと、見ておきたい所があったから」 と、律義に謝る。 「やっぱり何かあったんですね。麗子さんすぐに顔に出るから分かりますよ」 身を乗り出すようなその言葉に、麗子は頷きながら応える。 「大地くん、三宅先輩って知ってる?」 「え、えぇ。寺子屋さんから聞いた事がありますよ。確か前々会長でしたっけ。――校内にある、強固な封印はほとんどその人のじゃないんですか?」 「そう」 あの人が私に封魔術を教えてくれたのよね・・・・。 「その三宅先輩の封印が解かれるなんて事、考えた事もなかったのに」 麗子はさも悔しそうに言う。まるで自分の施した封印が破られて悔しがっているようにも見える。 その言葉に大地が驚いた。「え!? ほ、本当に何かあったんですか・・・・!」 「・・・・」 麗子は唖然として大地を見つめた。この後輩は時々事の重大さに気付かず、間の抜けた事を言っては、彼女を閉口させる・・・・。 『開かずの間』と言うのは、ただ扉が錆付いて開かない、などと言う単純な理由でそう呼ばれるようになったのではない。 ――昔の人々は何らかの理由で使えなくなった部屋に、家に取り付くさまざまな悪霊を閉じ込め、その霊障から家を守ったと言う。 つまり、『開けずの間』と言うのがこの場合は正しい言い方であって、『開かずの間』と言うのは霊を封じ込めた為に入れなくなった部屋と言う意味で、派生的に生まれた言い方だといえる。 ともかく――、封鬼委員会としては速急に対策を立てる必要があった。校内の霊的封印を管理するのも委員会の仕事の一つなのである。 「で、そこには何がいたんでしたっけ?」 「う〜ん、それが文雄くんに聞いてみないと・・・・」 分かんないのよねぇ、と麗子は肩をすくめた。 もう一人の封鬼委員会のメーンバーである寺子屋 文雄の使うノートパソコンのデータバンクには、過去の事件簿や古今東西様々なオカルト・神秘学の知識がまとめられている。そして彼自身はそのデータのほとんど、いやパソコンにはアップロードされていない細かい文献内容まで記憶していると言う・・・・。 「じゃあ、とりあえずは何もしなくていいって事っスか?」 「様子を見るしかないわね。私も目安箱の意見に何か事件の兆しがないか調べてみるから――」 大地くんも友達から情報を集めてみてよ、と、麗子は結んだ。 「分かりました」 「それから雫にもこの事は言っておいてね」 麗子は先に帰ってしまった彼女にも気を遣う。 「それじゃあ、今日はここまで」 こうして、封鬼委員会の会議は終了した。 二人は共に教室を出る。麗子は手を振って大地と別れると今度は生徒会室へと向かった。 |
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