「開かれた開かずの間」     by 上山 環三

 

 神降 亜由美はいつものように学校へ登校してきた。

 亜由美はこの順風高校、一年三組の生徒である。

 「お早よー」

 そう言いながら教室に入る。ショートカットの髪、小柄な体からは元気がみなぎっている。その様子は例えるならば跳ね回る子ウサギか――。

 今日も朝から調子がよかった。が、しかし――、それも教室に入るまでの事だったようである。

 「あ、亜由美・・・・!」

 と――親友の京子の声に、彼女はやっと教室の雰囲気がおかしい事に気が付いた。

 「桐咲さんが――」

 そう言いながら京子は駆け寄ってきて、桐咲 遥の席の方へと亜由美を引っ張る。

 そこにはちょっとした人垣ができていた。亜由美からは遥の様子は伺えない。

 爽快な気分は一転して――、嫌な予感がした。

 遥は多分、このクラスで一番目立たない(目立とうとしない?)生徒だ。そして、いじめられてもいた。彼女は、確か県外の出身だから、頼れる友人もいなかった。亜由美は何回かいじめの現場に出くわした事があって、それを止めた事があった。

 どうにも腹立たしい事だが、いじめているのはこのクラスの女子生徒数名だが、遥にどう言う恨みがあっていじめているのかは分からない。多分、自分達よりも弱そうに見える人間だったら誰でもよかったんだろうと、亜由美は思う。彼女は喧嘩をした事はないけれども、それでも多少身構えには心得があったし、いじめを見過ごす事なんて絶対にできない性格だったから(いや、これは性格云々の問題ではない! と、亜由美は思う)遥に変な言い掛りを付けているのがいたら、その場で糾弾するだろう。

 そもそも、亜由美が何回か止めた事もあって、表面的には遥へのいじめは減ったはずだった。表面的には――。

 「ちょっと通して・・・・!」

 亜由美はクラスメイトをかき分け、遥のもとへ進む。

 しかし、遣は自分の席に平然と座っていた。いつものように静かな顔で、何やら小説を読んでいる。

 「何だ。何でもないんじゃない」

 彼女の顔を見て、亜由美は息をついた。無意識に深刻な事態を想定していた。しかし、何でもなかったのだ・・・・。

 「亜由美、下を見て・・・・!」

 後ろから覗いていた京子が耳元で促す。

 「――!!」

 三人の女子生徒が倒れていた。「こ、これは・・・・」

 もう一度遥へ視線を向ける。彼女は足元に倒れている三人を完全に無視して、小説を読んでいた。それは、全くいつもと変わらない風景だった。しかし、今は違う。その風景には否が応にも『異様』の二文字が付きまとう。

 「せ、先生は!?」

 「芦田くんが今呼びに行ってる」

 京子がクラス委員長の名をあげた。そうして、亜由美は人込みから抜け出すと、倒れた三人の介抱を始めた。それを見て、気付いたように亜由美の手伝いを始める者が現れる。

 三人は首でも絞められたかの様な苦閏の表情で倒れていた。ただ、いわゆる外傷は見受けられない。

 亜由美は眉をひそめ、遥を見つめた。

 その三人は、彼女をいじめていた生徒だった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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