「開かれた開かずの間」     by 上山 環三

 

 「あった」

 今までそれぞれに暇をつぶしていた者が、寺子屋のその声で一斉に彼の所へやってきた。

 「倉庫の『開かずの間』・・・・、これだろ?」

 彼はノートパソコンのモニターから目を離さずに言った。

 「間違いないわね。三宅先輩の名前が出てるし、日付も多分合ってる・・・・」

 麗子はモニターを真っ先に覗き込んで言った。 

 「で、どうなんです?」

 と、大地がその上から声をかける。

 「馬鹿丸出しの質問だな」

 「・・・・」

 「まずいわね。やっぱり、低級霊がいくつか封印されてるってある」

 だから言ったろう、と、寺子屋は澄ました。

 『開かずの間』にはもう、何もいなかった。

 「どんな奴です?」

 また大地が訊ねた。寺子屋は眼鏡をスッと上げるとあっさりと言う。「何でもないな、雑魚だよ」

 「あそこにはもういなかったわ。――力をつける前に見付けなきゃ・・・・!」

 「そう言えば今日、一年のクラスで事件があったらしい。おそらくこの事と何か関係してると思うな」

 と、寺子屋が思い出したように言った。

 「一年、ですか?」

 知ってる奴あんまりいないからなぁ・・・・と、大地は腕を組んだ。封鬼委員会に現在、一年生はいない。

 「文雄くん、それ本当なの?」

 「あぁ。――麗ちゃん、知らなかった? 救急車まで来てたんだけど」

 「そうなんだ――」

 目を少し見開いて彼女は言う。全く知らなかった。

 「どうします? 麗子さん」

 大地はお伺いを立てる。しかし、その口調が多少投げ遣りに聞こえるのも、気のせいではないらしい。

 「その事件は調べてみる必要がありそうね。――ま、でも今回は私が色々調べてみるわ。大地くんの出番はとりあえずお休みと言う事にしておきましょう」

 麗子はすぐに結論を出した。

 「はぁ、そうですか」

 大地は気楽な返事をする。彼は頭を使う後衛的作業より、いわゆる前衛で派手に暴れる方を担当している。

 と――、

 「あ」

 大地が言った。

 「何よ?」

 麗子は何やら思い付いてニヤニヤし始めた大地を薄気味悪そうに眺めた。

 「麗子さん、自分で調査するって言うの、三宅先輩の封印だからでしょ?」

 「な!?」

 「あ、赤くなった」

 「わ、私はただっ・・・・!」

 大地の突っ込みに思わずうろたえる。

 「ただ、何です?」

 「もう!! 先輩をからかうんじゃないのっ!」

 麗子の一喝は教室の外まで響いた・・・・。

 

 

 

その日から順風高校に異変は起き始めた――。

窓ガラスが、風もないのにガタガタと揺れる。

教室が地震もないのに軋んだ。

毎日多発するいざこざ。

持ち物が無くなる。

 放課後、部活動が行われている体育館の照明が明滅する。

 廊下を歩いていると誰かに着けられているような・・・・。

 そうして、校内を凶凶しい気が――。

いや、異変と言うにはそれは余りに些細なものだったかもしれない。しかし、それはそう、ジワジワと順風高校に影を落とし始めていたのだった。

もちろん封鬼委員会は独自にそれを察知し、動き始めている。それは、彼らにしか収める事はできないのだ。

しかし――、ここにたった一人、その異変に気付き、立ち向かおうとしている人間がいた。

神降 亜由美――、彼女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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