会議室を飛び出た雫は、一目散に自分の教室に向かった。
――恭介、まだいるかしら。 息を切らして教室の扉を開ける。 「あ、終わったのか?」 扉の開く音に反応して、一人で教室に残っていた恭介がパッと顔を上げた。 「うん。ごめん。待たせちゃって」 雫はそう言って白い顔を下へ向ける・・・・。 「いいって。大事な仕事だろ」 と、恭介は立ち上がった。「ま、結構待ったけどな」 「もう! いじわる」 「ははは・・・・」 恭介は雫の拗ねた視線を笑い飛ばして 「さ、帰ろっか」 と、彼女を誘った。 南雲 恭介は、雫の彼氏である。 付き合い始めててまだ一ヵ月とちょっと。席替えで隣になって妙に気が合ったのがそもそもの始まりだったが、雫の方が恭介に惚れ込んでいる。それこそ恐いくらいに彼女は恭介の事を好きになっていた。 ともかく、傍目には最近やっとキスまでいったと言う、普通のカップルである・・・・。 さて、二人は週末のデートの話をしながら、シューズロッカーの前までやってきた。 「あ、先輩・・・・」 不意に雫は声をかけられた。 「み、神降さん・・・・!」 次の言葉が出ない。さっきまで誰もいないだろうと思って恭介に寄り掛かって歩いてたのだ・・・・。それを見られたと思うと急に体がほてってくる。 「雫?」 スニーカーを履いた恭介が、雫のシューズロッカーの所へやってきた。 「あれ、誰?」 恭介は陽気に聞いた。 「――委員会の、後輩・・・・」 雫は淡々と答えた。 「神降です」 亜由美は卒なく名乗る。 「あ、俺は南雲 恭介」 「雫先輩の、彼氏・・・・ですか?」 亜由美は雫に小声で訊ねた。きょときょとしている彼女が微笑ましい。 「そ、そうよ」 「なんだ、そう言う事だったんですね〜」 亜由美が満面の笑みを浮かべたので、雫はみるみる赤くなった。彼女のあまりの変わりように、亜由美は慌てて付け加える。 「あ、この事は誰にも言いませんから。心配しないで下さい、先輩」 と、一人で頷いて 「――それじゃあ、邪魔者は消えますね。雫先輩、南雲先輩さようなら」 「さん付けでいいわよ。――じゃあね」 後輩の満面の笑顔に雫は少々投げ遣りに応える。そうして亜由美は一緒にいた恭介にもペコリと頭を下げると、早々に走り去ってしまった。 ・・・・真っ直ぐでいい子・・・・。 雫は亜由美を見送りながら思った。 汚れを知らない笑顔が眩しいくらい・・・・。 「元気な子だな」 恭介が雫の表情を見て取ったかのように呟いた。 「――そうね」 雫は横目でちらりと恭介を見る。 「あ、別に変な意味で言ったんじゃないぞ」 「分かってるわよ」 と、吹き出す雫に 「俺はお前一筋・・・・!」 恭介が真顔で言うのを聞いて、雫はまた真っ赤になった。そして、その彼女をしげしげと眺めて恭介はこう付け加えた。 「真っ赤になるのがまたかわいいんだよな」 |
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