その夜、亜由美は東雲 麗子に電話をした。
放課後からの出来事を話すと麗子は 「え!? 雫に彼氏が!?」 と、思わず口走った。 「あの、雫さんて、何だかあまり封鬼委員会に馴染んでませんよね・・・・」 亜由美はそう聞いてみる。 「え、そうかしら。――まぁ、確かに雫はあんまりみんなと一緒に行動したがらないし・・・・。それにちょっと人見知りするのよね。あの子」 と、麗子は言葉を選ぶように言った。 「そうですか――」 「でもね、互いの事がもう少し分かりあえば、雫だってガードを崩してくれるわよ。亜由美ちゃんも、そんなに心配しないでいいわよ」 それもそうだとは思う。シューズロッカーの前にいた、あの笑顔の雫を見ていたので、亜由美も分かっているつもりだ。 ただ――。 「で、その南雲くんだっけ?」 麗子は声の調子をがらりと変えた。「彼の家に入っていった男ねぇ。気にならないでもないけど」 亜由美は一旦考え事を中断して、麗子に話を合わせる事にする。 「はい・・・・、あの、何だか気になって」 「うん、分かったわ。雫に聞いてみましょう。亜由美ちゃんはまだ、聞き辛いんでしょ?」 「・・・・はい・・・・」 亜由美は素直に頷いた。 彼氏の事は誰にも言わないと言ったのに、その日の内に麗子に言ってしまった・・・・。理由はともあれ、その事を考えると、とてもじゃないが雫に会わせる顔がなかった。 「でもね、私もここのところ忙しいから、しばらく待ってて欲しいのよね」 「あ、分かってます」 ――麗子は三年生なのだ。こんな事をお願いするべきでないのかもしれない。放課後には補習だってあるし、もちろん進路の事もあれこれと考えている時期だろう。 でも、この事を相談できる相手は麗子以外にいなかったのだ。亜由美はできるだけ早く雫に聞いて欲しかったが、そうは言えなかった。 事は、雫自身ではなく、彼女の彼氏についてだ。電話で話すのにも抵抗がないとは言えない。 ――私が直接間くしかないのかなぁ。 そう思いながらも麗子にお願いして、亜由美は受話器を置いた。 その途端、電話のペルが鳴り響いて(神降家の電話はダイヤル式の黒い電話である)、亜由美は飛び上がった。 「――は、はい、神降です」 「あ、亜由美?」 間延びした声が聞こえた。 「――なんだ京子かぁ。びっくりさせないでよ・・・・!」 亜由美は胸を撫で下ろす。 「亜由美ぃ、なんだはないんじゃないの?」 「あはは、ごめん、ごめん。――で、何?」 「何って、もういいの?」 京子の、不機嫌そうな声。亜由美は慌てて今日一日の会話をトレースする。 な、何だっけ・・・・。 と、京子の半分呆れた声が耳に入った。 「・・・・もう。宿題、できたの?」 「あっ!」 「きゃっ! ――大きな声たてないでよ!!」 そう言えば京子に電話して、宿題の解き方を教えてもらう約束があったっけ・・・・! 「ごめん、京子。すっかり忘れてた」 「・・・・」 受話器の向こうで、むくれている京子が見えるようだ。 「もう! 準備はいいのっ!?」 その声に、亜由美は急いでノートを取りに上がった。 |
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