「家庭凶師」         順風高校封鬼委員会シリーズT−A  by上山 環三

 

 順風高校は一学期の期末テストの期間に入った。

 期末テストは全部で十科目のテストがある。成績が悪いと夏休みに補習があるので、亜由美もそれなりに(?)頑張るつもりだった。

 雫の事は気になるが亜由美も自分の事で精一杯で、何もできないままに時間は流れた。麗子がちゃんと電話をしてくれた事だけが唯一の救いだと彼女は思っていた。

 最初のテストが明後日に迫ったその日――。

 亜由美は学校から帰る途中で、再びあの男を発見した。

 男は、何やら難しい顔をして歩いている。南雲家とは反対の方向だが、亜由美はかまわず後を付ける事にした。

 テストの事は既に頭の片隅に追いやっている。そうでなくてもずっと気にしていた事だ。あれこれ迷う前に、やはり彼女は行動に移していた・・・・。

 今、亜由美はあの男の正体を突き止める事だけを考えている。

 男はかなりの長時間歩き続けた。当然、市街からはだんだんと離れていく。

 ――どこへ行こうって言うの・・・・?

 かなり距離を取ってはいるが、こう人通りが少なくなってくると、見つかりはしまいかと不安が膨らむ。

 しばらくして、亜由美はこの先の雑木林が男の目的地である事に気が付いた。確か、『順風神社』の裏手の林だ。

 男からは、相変わらず陰鬱な妖気を感じている。

 亜由美は気付かれないように先回りする事にした。脇道へ入るや否や走り出すと、一、二分で雑木林に着く事ができた。

 神社の裏手であるこの雑木林の周りには当然人気は少なく、薄暗い林の中には誰もいないようだった。

 亜由美は少し奥に入って、散歩道の近くにある大きな雑木の後ろに隠れた。

 雑木林の中は異様に静かだった。セミの声すら聞こえない。

 そして――、彼女はやっと異常に気付いた。

 雑木林から生き物のざわめきが消えているのだ。

 結界――!? まさか――!?

 亜由美は素早く辺りの気配を探った。

 ここはヤバイ!

 相手がこんなに早くに手を打ってくるとは考えてもみなかった。

 精神集中――。意識網をそこいら中に張り巡らせる。

 男の気配を、妖気を感じ取らなければ、こっちがやられる!男は今、亜由美をどこからか狙っているのだ・・・・!

 こめかみから汗が流れ落ちた。

 どこ――!?

 野鳥の声がどこからか聞こえてきた。

 「っ!!」

 頭上に気配を感じて、亜由美はそのまま真横に飛びのいた。 

 「――ッ!」

 亜由美のいた所に男が物凄い速さで落下――否、攻撃してきた。男は両手をえぐるように地面に突き刺している。

 一瞬、目と目が合う。

 亜由美がその、絶対の攻撃を躱した事に驚いているようだ。しかし、男はすぐに両手を抜くと、うなり声を上げて亜由美に飛び掛かった。

 手先が空を切る。

 亜由美はまだ起き上がっていない。――咄嗟に、カバンを投げ付ける。

 男はそれを左手で払った。それで一瞬、隙ができた。男が再度襲い掛かろうとした時、彼は亜由美の潭身の体当たりを食らった。

 まさか彼女が向かってくるとは思わなかった男は、まともにそれを食らって一メートルほど吹っ飛んだ。

 その隙に亜由美は逃げ出す。

 しかし――

 「あっ!」

 彼女は無情にも地面に浮き出た木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。凸凹の地面で頭と体をしたたかに打って、彼女はうめいた。

 その様子を見て、男は冷笑した。体勢は既に立て直している。

 ――侮しいが、敵の方が一枚上手だった。

 こんな所まで罠とは知らずにのこのこ出ていった、我が身の愚かさを亜由美は呪う――。

 「痛・・・・!」

 亜由美は何とか起き上がろうと、地面に手を付ける。頭がまだクラクラしている。

 「俺の邪魔をする奴は、殺す」

 男は感情のない声で言う。

 何か、何か助かる方法は・・・・。

 朦朧とする意識の中で、必死に考える亜由美。

 「・・・・死ね!」

 鋭い爪がきらりと光った。次の瞬間――

 「ちっ!」

 男が舌打ちするのが聞こえた。「邪魔が入ったか。――いいか! 死にたくなかったら今後俺には近付かない事だ」

 そして、男の気配は消えた。

 私、助かった・・・・。

 「み、神降さん!?」

 誰かが自分の名を呼ぶ声を聞いて、亜由美の意識は闇の中に沈んだ・・・・。

 

 

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