順風高校封鬼委員会 T−B
「ホルマリン漬けの復讐」
「あ、気が付いたみたいよ」
誰かの声がした。亜由美は目をゆっくりと開けた。 見覚えのある、天井が見えた。 ――病室・・・・? 「亜由美さん、気分はどう?」 枕元にいたのは雫だった。 「・・・・雫さん・・・・」 言葉とは裏腹に、亜由美の目は雫を見ていない。無意識に彼女の視線は大地を探していたのだった。 「――よかった、気が付いたか」 亜由美の前に誰かが立ちはだかった。 「やま・・・・」 ハッと顔を上げた亜由美の前に立っていたのは、戸田だった。彼はいつもの背広を着て彼女の前でにこやかに笑った。 「――えっ・・・・!?」 さすがに二の句が継げない。 「・・・・君には言うのが遅れてしまったようだなぁ」 戸田は頭をかいて苦笑いし 「私は人間じゃないんだ」 と、言うなり彼は自分の頭を、ポンと勢いよく外した。 「!!」 亜由美は目を剥いた。戸田はそのままの状態で亜由美の方へ顔を差し出した。 「私は『アナトミー』。人体模型像の付喪神なんだ」 付喪神とは長年人と接するうちに、物に魂が宿ったモノで一種の妖怪であるが――。 「・・・・」 開いた口が塞がらないとはこの事だ。 雫は、亜由美のいなくなった教室へ戸田がやってきて事、そして過去の事件からつながる今回の宿鬼の復活についての話を彼女にした。 「ごめんね、亜由美さん。隠しておくつもりは全然なかったんだけどほら、先生が来た時、あなたいなかったし、バラバラになった時は私たちも気が動転しちゃって」 そう言って雫は苦笑した。 「いやぁ、そう言うわけで、私はバラバラになっても平気なんだ」 戸田は外した頭を、耳取り目取り分解して見せた(見たくない!)・・・・。 「あの、雫さん・・・・」 「何?」 「あの悪霊はどうなったんですか?」 「あぁ、宿鬼の事? あれなら、私が標本の猫から払い出して――」 「宿鬼・・・・!?」 亜由美は繰り返した。 「宿鬼は何かに取りついていないとその力を行使できませんよ。放っておいても大丈夫だと思いますが」 その戸田の言葉に、亜由美は顔色を変えた。 「とんでもない! ――先生、頭付けて下さい」 「あ、失敬」 「どう言う事!?」 「雫さん、猫の標本はどうしましたか?」 亜由美は起き上がった。額や腕の包帯が痛々しい。 「あれならいつもの所に供養したけど」 封鬼委員会は学校のある所に墓地を持っている。もっとも、今その墓地は飽和状態であった。 そうして、雫が不安げに答えた。 「いけなかった・・・・?」 「標本を、猫を完全に消し去らないと宿鬼はまたあの猫に憑いてしまうんです!」 そう言いながらとうとう亜由美はベッドから降り立った。 「ちょ、ちょっと待って!」 と、雫が慌てた。 「まだ、安静にしておかないと――」 「いいえ。あいつは私が消滅させます・・・・!」 亜由美は力強く続けた。 「妙子さんと約束したんです! あいつを二度とこの世に蘇らせちゃいけないって。――雫さん!」 亜由美は雫に詰め寄った。 「ま、待って、亜由美さん。その妙子さんって、あの犬の飼い主でしょう?」 そう言って、雫は無理やり亜由美をベッドに腰を下ろさせる。亜由美は妙子から電話のあった事を話す。 「えぇ、それは妙子さんから聞いたわ」 話を聞いて雫は頷いた。 その時、病室のドアが開いた。 「雫、電話だ。高畑って子からだ」 白衣姿の雫の父親が、コードレスホンの子機を持って入り口に立っていた。 「ありがと、パパ」 「あ、私出ます」 亜由美は滝の持っていた子機を取った。 「もしもし!?」 「あ、無事だったんですね!?」 妙子の喜ぶ声がした。亜由美はそれに応えて 「あいつがまた出たのね!?」 と、会話を急かす。 「はい! 知ってたんですか」 「まあね。――学校でしょう? すぐに行くから!」 亜由美はそう言って電話を切った。 雫がやれやれといった表情で肩をすくめていた。
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