順風高校封鬼委員会 T−B
「ホルマリン漬けの復讐」
「あれ、帰ってたんだ」
山川家の台所に、母親の姿があった。 「――おかえり。どうだった、向こうは」 大地は久々に見る母の背中に向かって何気なく聞いた。 「よく聞いてくれたわね、信州っていい所よぉ」 山川 久子は軽やかに振り返った。 「これ、食べる?」 「何これ?」 大地は器に入れられた茶色い木の実(?)の漬物を見て眉をひそめた。 「信州のお土産よ」 「ふうん」 一個摘んで口の中に放りこむ。 「――でね、空気はおいしいし、水はきれいだし・・・・。もう最高だったのよ! できるなら、もう少し紅葉が深まってから行きたかったわねぇ」 久子は弾んだ声で言った。 「母ちゃん、何しに行ったんだよ」 「あら、夫婦水入らずの旅行に――」 「・・・・」 大地は返答に諸まって漬物をもう一個口に放り込む。 「ところで、これ何? 妙な味がするけど」 大地は器を指差して言った。 「オリーブじゃないよなぁ」 どことなく似ていた。 その時 「兄ちゃーん、電話ぁ!」 と、廊下から空太の声が聞こえてきた。 「電話だよ――」 分かったよと、大地は電話を取りに行く。そして、受話器を手にした大地の耳に、甲高い雫の声が飛び込んできた。 「あ、大地? 大変なの!」 その張り上げる声に、大地は思わず耳から受話器を遠ざけた。 「猫が、宿鬼が蘇ったの――!」 「何だって? ど言うことだよ!?」 「いいから早く学校に行って! 私たちもすぐに向かうから!」 雫からの電話はこれだけで切れてしまった。 ――どうなってんだ・・・・! 大地は受話器を叩きつけ、玄関へ急いだ。 「あら、出かけるの?」 靴を履く大地の背後から、母親が声をかける。 「お友達に合うのなら、これを持って行きなさい」 久子はノスタルジックな包み紙に包まれた小箱を出した。 大地が台所で食べた木の実が包み紙には描かれている。 「それどころじゃないんだよ!」 「だって、おいしいのに・・・・。『またたび』、口に合わなかった?」 久子は口を尖がらせた。 「え? 何だって?」 大地は母親を見上げた。 「何よ、そんな恐い顔して」 「今何て?」 「またたびの漬物なんだけど!」 久子はそう言って 「いらないんなら、お隣の伊藤さんちへ持ってきます!」 と、そっぽを向いた。 「待ってよ! それだよそれ!」 大地は物凄いスピードで包をひったくった。 「これ、ありがたくいただくよ!」 大地はお土産を小脇に抱えると、玄関を飛び出した。 |