順風高校封鬼委員会 T−B

 「ホルマリン漬けの復讐」

 

 二学期に入って封鬼委員会のメンバーは実質三人――いや、実質と言うならば二人か? ――になってしまった。

 封鬼委員会の場合、その性質上あけっぴろげに勧誘活動もできないので、どうしても知人を引っ張ってくる事になってしまう。当節、部活動に命を賭ける高校生は少なくなったようで(そんな人間は最初からいないと言う説もある)、封鬼委員会としては如何ともしがたい状況にあった。

 問題はただ勧誘すればいいと言うだけではない。生徒会との関係もある。――そう、今のところ封鬼委員会への事件解決の依頼は、生徒会の意見箱を通してくるのである。その為にも、委員会の中に一人は生徒会執行部の人間が欲しいのである。

 もっとも、問題提起しておいて悪いのだが、その点に関しても現在封鬼委員会三年生で、生徒会執行部員でもある東雲 麗子と寺子屋 文雄が、その執行部の中にいい人材を見つけたそうで、目下勧誘中と言う事であった。

 さて、そんな封鬼委員会の、二学期始まって最初の定期会議はと言うと――。

 「麗子さんたち、夏休みの模試、結構よかったみたいだなぁ」 

 机に足をのせて反り返りながら、何気に大地は言った。封鬼委員会のホープ(!)、一年生の神降 亜由美はそれを見て眉をひそめる。

 「先輩、危ないです。――机に足あげるの止めた方がいいですよ」

 「あ、ごめんごめん。どうも癖でさぁ。麗子さんにもよく言われてるんだけど」

 「・・・・進歩ないですね」

 亜由美は呆れて言った。大地はそれもあまり意に介していない様子で

 「何か、亜由美くんて麗子さんに口調が似てきたような気がするんだけどなぁ」

 と、座り直して言う。

 ――もうお分りであろうか。

 教室には実質の(?)二人しかいないのである。つまり、これでは会議にはならない! 

 七月の事件(順風高校封鬼委員会・第二話『家庭凶師』参照)が解決して、三人目のメンバーである滝 雫も、これからはちゃんと定期会議に出てくると思われたが、それはそれ、こちらの勝手な思い込みだったらしい。

 表面上、雫は相変わらずそっけないのであった。

 ともかく、二人しかいないので定期会議はいつの間にか雑談に変更となってしまった。

 そして、亜由美は友人の志童 京子から聞いた、ある話を思い出した。それは体育館の裏で腹を切り裂かれて死んだ、野良犬の死体があったと言う話で・・・・。

 その話を朝登校して来てすぐに聞かされた亜由美は、今やっているゲームに登場するゾンビ犬とイメージが倒錯して、それが一日中頭から離れずに困った。

 「何だ、亜由美くんもあのゲームやってるのか? それでどう? クリアできそうか?」

 大地は笑いながら聞いた。

 「それが全然駄目で、ゾンビが出てくる度にコントローラ放り投げてるんですう」

 「あはははは。何だ、情けないなぁ。封鬼委員会でいつもビシッと決めてるじゃないか」

 「そんな事言ったって、ゲームじゃ護符は使えないんですよー!」

 亜由美はそう言ってむくれた。

 話はまた雑談へと変わるかと思われた。

 「で、どうなのさ?」

 と言う大地の問いに、亜由美は

 「それはやっぱり、鉄砲よりは護符の方が――」

 と、もっともな事を言った。

 「違うよ、体育館裏にあったって言う犬の死体だよ」

 「え・・・・、そ、そうですね。――まだ何とも言えないです。京子の話だからホントかどうかも分かんないし」

 うろたえて亜由美はひどい事を言った。

 「・・・・そっか。ま――でも、一応調べといた方がいいかもしれないな」

 と、大地は腕を組む。死体が何かの術――例えば黒魔術の生け贄なんかに使用されたものとなると、それはもう封鬼委員会の担当である(生け贄に使ったものをそんな簡単に捨てておくとも思えないが)。

 亜由美は大地を見上げて言う。

 「あの、私、調べてみます」

 「うん。頼むよ」

 大地は亜由美のその言葉に微笑んだ。そして

 「――よし、じゃあ今日はもう終わりにしよう。また何かあったら、連絡してくれよな」

 と、会議(?)を締めくくった。

 亜由美は何となく物足りなかったが、これ以上議論する事も特に思い付かなかったので、一応肯いて立ち上がった。

 「戸締まり頼むよ。――じゃあな」

 それだけ言うと、大地は足早に教室を出て行った。

 「・・・・」

 大地の後ろ姿を見送って亜由美は、どう言うわけか、しばらくぼんやりとしていた。

 ややあって、教室に一人残された事に気付く。そうして、彼女の心に訳の分からない理不尽な感情が沸き上がってくる。

 何故か無性に腹が立ってきた。――でも、怒りとは違うその感情を、亜由美は必死でコントロールしようとする。

 第一、何に腹を立てているのか、自分でもよく分からない。今のこの状況がやるせないし、おもしろくない。

 こんな事今までなかったのに、どうしちゃったんだろう・・・・。 

 亜由美は自分の感情を少々もてあましながら、教室を後にした。その感情が一体何なのか、彼女白身には皆目検討も付かなかった。

 その夜、京子に何気なくその事を電話で話すと、あっさり答えが返ってきた。

 彼女はにやけた声でこう言った。

 「――恋でしょ、恋」

 と。

 しかし、その後すぐに二人で

 「んなわけないよね〜」

 「んなわけないでしょ〜」

 と、爆笑し合った事も付け加えておく・・・・。

 

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