順風高校封鬼委員会 T−B

 「ホルマリン漬けの復讐」

 

 順風高校の校舎内、いや、敷地内に、動物のバラバラになった死体が放置され始めたのは、封鬼委員会のあの定期会議から二日後の事である。

 それはまず、校舎内にいた、ネズミやコウモリの死体からだった。次に、校庭の木々に巣のあったカラスなどの野鳥のそれが目に付き始めた。最後に、近隣に棲んでいたと思われる野良犬や野良猫の死体が遺棄され始めた。

 そして全ての死体に、解剖実験のような切り刻まれた痕があった。それは腹部だったり、頭部だったり・・・・、いずれにしても尋常な精神の持ち主の仕業ではなかった。

 ――もちろん、封鬼委員会は事件解決の為、必死で動いていた。動いていたにもかかわらず、何の手がかりも得る事はできなかった。

 夜間の見回り――その何者かが、夜間に活動している事だけは確かだった――が何度も行われた。しかし、それらは全て無駄骨に終わった。何の異変も見つける事はできなかった。 

 まぁ、しいて言えば翌日の授業に支障をきたしただけだったのである。

 

 

 「――ったく、どうなってんだよ!」

 大地は目の前の机を思い切りぶっ叩いた。

 「なんで何も出て来ないんだ――!?」

 「そんなイライラしないでよね。こっちだって精一杯がんばってるんだから」

 憔悴した顔で、雫が髪をかき上げながら言う。

 「あんたには分かんないでしょうけど、妖気を探るのって結構体力使うのよ」

 「分かってるよそれくらい」

 大地は雫を睨む。

 「雫こそいつも来ないんだから、こう言う時ぐらいちゃんと働いてくれよな・・・・!」

 その言葉に雫が目をむいた。

 「何ですって、私の所為だって言うの!!」

 「あぁ、そうも言いたくなるよ! ――この前あった定期会議だって来なかったくせに、それでもさぼってないって言うのかよ!?」

 「そ、それは――!」

 雫の苦しいところである。もちろん、雫が会議に(学校にも)顔を見せない理由を、大地は十二分に知っている。しかし、今はそうと言ってでもストレスを発散しないと、おかしくなってしまいそうであった。

 そうして、この二年生二人の睨み合いが続くかと思われたその矢先――

 「いい加減にして下さいっ!!」

 と、教室に怒鳴り声が響いた。

 睨み合っていた二人が、思わずその声の主を見つめる。

 その二人の視線の先で、亜由美が体を奮わせていた。

 「何やってるんですか!」

 「・・・・」

 「今はそうやって言い争ってる場合じゃないですよっ!? 被害が生徒たちに及ばないうちにこの殺戮行為を止めなければいけないって言ったのは山川先輩ですけど、こんなのじゃいつまで経っても解決しませんっ!!」

 「あ、亜由美くん・・・・」

 「私、失礼します!」

 そう言うなり、亜由美は百八十度向きを変え、教室のドアを目指す。

 「ち、ちょっと、亜由美さん・・・・!」

 ――バタン!!

 亜由美に思いっきり閉じられたドアの音が、教室に響き渡った。すぐに、雫が後を追おうとする。しかし

 「――雫」

 その彼女を、大地は呼び止めた。 「何よぉ!」

 雫は大地を睨んだ。

 「悪かったよ。謝るから、座れよ」

 「――神降さん、放っておいていいの?」

 「いや・・・・、よくないけど、こっちが先だ」

 大地は憮然として言った。

 「・・・・」

 「座れよ、な?」

 「分かったわよ。――でも、一つ条件があるわ」

 大地の催促に椅子を引いておいて、雫は言った。

 「何だよ?」

 「神降さんには、大地が謝ってよね」

 雫は目を細めてそう言うと、席に着いた。大地は一瞬の思案の後、口を開いた。

 「分かってるよ。さっきのは僕が悪かった・・・・」

 「ならいいの」

 大地の答えを聞いて、満足そうに雫は微笑む。

 「・・・・とにかく、昨日、電話があったんだ」

 「麗子先輩からでしょう」

 「あぁ、――雫の所にもか?」

 「ええ」

 「なら、話は早いや。麗子さん、僕にこう言ったよ。『次期委員長は大地くんに決まってるてるのよ。これからは雫と亜由美ちゃんの三人で事件を解決していってね。期待してるから』って」

 「あら、おめでとう」

 「まだ続きがあるよ。麗子さんの電話が終わってから十秒も経たないうちに、今度は寺子屋さんから電話があって『そう言う事だから、がんばってくれよな。何か厄介な事件が起こってるらしいけど、お手並み拝見といくつもりだから』って、それだけ言って切れたんだよ」

 「・・・・らしいわね」

 雫はフッと笑った。それを見て、大地は続ける。

 「あと、勧誘の件、何とかなるかもしれないって」

 「あらそれじゃあ、こっちからもモーションかけなきゃ」 

 「まぁ、その話は後だ」

 「・・・・」

 「――とにかく今起こってる事件を何とかしなきゃなんない」

 「えぇ、その通りよ」

 「でもこれじゃあ、委員長なる前にクビだよ、全く」

 大地は我が身の不運を嘆いた。

 「あら、本当ねえ」

 「・・・・」

 「私嫌よ。委員長なんて」

 「お前な・・・・!」

 「その為にも、大地にはがんばってもらわないといけないわね」

 雫の独り合点に、大地は何か抗議しようとしたが、差当り何も思いつかなかったので、彼は黙って雫を睨んだ。

 「でも――、一体私たちはどうすればいいのかしら!」

 雫は頭を抱えた。彼女がこうして弱みを見せる事はかなり珍しい。実際、彼女もそれだけまいっていた。大地はその様子を見て、先ほどの暴言を反省した。 

 その時、教室のドアを遠慮がちにノックする音が聞こえた。 

 「はい――?」

 誰だろう? と、不思議そうな顔をしながらも、雫が返事をする。

 しばらく間があって、ドアはガラリと開いた。

 そこには、背広を着た一人の男性が真っ直ぐに立っていた。

 「どなたですか?」

 「あの、封鬼委員会と言うのはココでしょうか?」

 雫の質問をとばして、男は真っ直ぐのまま聞いた。何だかマネキン人形のようである・・・・。

 「はい、そうですけど?」

 とりあえず雫はそう答える。すると、男――戸田 吾郎はにっこりと笑って、

 「いい情報を持ってるんですが」

 と、教室の中へ入って来た。

 

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