順風高校封鬼委員会 T−B
「ホルマリン漬けの復讐」
『そいつ』は、犬小屋の奥にいた。
生物室の隣にある、生物準備室――。それまでは、その準備室にある、もう何十年も開けられた事のなかった戸棚の奥で、彼はずっと眠っていた。そして、彼は眠りの中で考えていた。 自分はどうしてこんな醜い姿でいるのか? 仲間はどうなったのか・・・・? 一体ここはどこなのか? 自分はどうしてここにいるのか? ――分からない。 そう、あの時までは分からなかった。『そいつ』が入ったビンを見つけた生物教師が、その封を切って封印された蓋を開けるまでは――。 教師は『そいつ』の大嫌いな液体をビンの中に充たしたが、封を切ってくれた事に比べると、それは些細な事でしかなかった。 そして『そいつ』は思い出した。 自分の境遇を――。これから何をすべきかと言う事も――。 どのくらいあの暗闇の中で過こしたのか、『そいつ』には分からなかったが、窮屈なビンの中へ閉じ込め、彼から自由を奪った奴らはまだこの学校にいるに違いなかった。 奴らへ復讐する事を『そいつ』は決意した。まず、奴らへ自分の存在を知らしめる為に、『そいつ』は夜な夜な徘徊して回った。 そして、目に付いた生き物たちを片っ端から殺していった。自分と同じような姿に切り刻んでやったのだ。 今――、奴らが自分を探しているのも分かっている。が、奴らに自分を見つける事はできない。 『そいつ』の妖気は奴らが彼を封印していたこのビンによって、完全に消す事ができた。『そいつ』の妖気を封じる為に奴らが使ったこのビンを、彼は逆に利用したのである。 見てみろ! ――間抜けな奴らは俺を見つける事すらできないではないか。 このビンの中は狭いが、居心地は悪くない。あの嫌な液体はとっくに捨ててやった。――もう何年も、『そいつ』はこの中で過ごしてきたのである。今更外に出る気も彼にはなかった。 復讐――。今はそれだけが『そいつ』の全てだった。 そして、『そいつ』は今、犬小屋の奥にいた。 生物準備室の戸棚から抜け出し、そこに潜んでいた。 しかし――、そいつは知らない。その後、彼を追って、同じように生物準備室を抜け出して来た者がいる事を。 そして、生物の教師は呑気な事に、最後まで準備室から消えた彼らに気付く事はなかった・・・・。
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