順風高校封鬼委員会 T−B

 「ホルマリン漬けの復讐」

 

 夕方、神降家に電話があった。

 ちょうど主の神降 慶一郎が秋の個展を開く為の打ち合せに電話を多用していた。

 しかしその電話は娘の亜由美へかかってきたものだった。 もちろんいつものように彼女が電話を独り占めする事はできない。親友の京子となら二時間は軽く話していられる亜由美ではあったが、今日は手短にすますつもりで受話器を取った・・・・。 

 「もしもし――」

 「――あの・・・・、神降さんですか?」

 それは聞き覚えのない女性の声だった。誰だろう? と、首をひねりながら亜由美は問う。

 「ええ、そうだけどあなたは?」

 「よかった」

 電話の向こうで相手が安堵の息をついていた。――いたずらとも思えないので、亜由美はその彼女が話し始めるのを待つ事にする。

 「あの、私はクロノの飼い主の、高畑 妙子と言います・・・・」

 「クロノ?」

 ――どこかで聞いた事があった。

 ペットの名前? それとも何だったかしら?

 いずれにせよ、クロノと言う名前のモノを思い出す前に

 「クロノの仇を取って欲しいんです」

 と、妙子が単刀直入に言った。――亜由美は少々面食らう。

 「仇? クロノって言うのは・・・・?」

 「私が学校で飼っていた野良犬の事です」

 そうだ! 学校にいた野良犬が確かクロノって――!

 そして、妙子は自分が順風高校の生徒で、クロノが殺された事を語った。

 「犯人を見つけたんです。あ、でも見つけたのはクロノですけど」

 「え?」

 妙子の言葉に、亜由美は眉をひそめる。

 「今、クロノが見張ってるんですけど、私に神降さんを連れて来いって言うので、こうして電話したんです」

 妙子は一方的に喋っている。

 「ちょ、ちょっと、ど、どう言う事なの?」

 何だか矛盾した話である。亜由美は受話器を持ち直すと、もう一度念入りに聞き返した。それは亜由美たち封鬼委員会の面々が、今必死になって探している、動物虐殺の犯人に関する情報だった!

 「――じゃ、そのクロノの幽霊が、犯人の悪霊を見つけたって事なのね!?」

 はやる心を押さえながら訊ねる亜由美に

 「はい・・・・! あの、学校の公衆電話からかけてるんですけど、今すぐ来てくれませんか」

 と、妙子は応えた。

 あれだけ探しても見つからなかった動物虐殺の犯人がすぐそこにいると言う――。

 事件は急展開を見せたようだった。

 「分かったわ! これからすぐに学校へ行くから、待っててくれる!?」

 亜由美はすぐにそう答える。

 「いい? 絶対にその悪霊を刺激しちゃだめよ」

 「はい。分かってます」

 ・・・・こう言う返事は毎回あてにはならないのだが、それでも亜由美は念を押して家を飛び出た。

 

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