順風高校封鬼委員会 T−B

 「ホルマリン漬けの復讐」

 

 亜由美が家を出て何十分か後、順風高校の校門の前に集まる三つの人影があった。

 封鬼委員会の山川 大地と滝 雫、そして講師の戸田 吾郎である。

 「ちょっと大地、あなた亜由美さんにちゃんと謝ってきたの!?」

 と、大地の顔を見るなり、雫は口を開いた。

 「い、いや、それが今日は話し中が多くて、電話がつながらないんだよ・・・・」

 「信じられないわね! ホントあなたって人は」

 「仕方ないだろう・・・・」

 また雲行きが怪しくなってきて

 「あの、そろそろ行きましょうか」

 と、戸田が口を挟む。「どこから出てくるか分かりません。気を付けて下さいよ・・・・!」

 真剣な表情で彼は言った。

 ――戸田が大地たちに提供した情報は、まさに彼らが求めていたものだった。

 封鬼委員会を訪ねて来た戸田は開口一番、今回の動物虐殺事件が宿鬼の仕業だと言う事を説明したのである。

 戸田の話によると、その昔、宿鬼は古い猫のホルマリン標本に宿って、生徒に危害を加えようとしたらしい。

 そこで封鬼委員会が記録している過去の事件データを調べてみると、該当する事件は次のようなものであった事が分かった(古い事件の為、詳しい説明は戸田の記憶によるものである)。

 そもそも、宿鬼とは物に宿る悪霊の総称である。

 十年程前――、順風高校生物部が造った猫の標本に宿った宿鬼は、標本から猫の恨みを引き出し、生徒に襲いかかった。

 宿鬼は学校にいた雑霊を呼び寄せると、ヘビやトカゲ等、他の標本に雑霊を取り憑かせ、群れを成して暴れまわったのであった。

 当時の封鬼委員会によって雑霊は退魔され、宿鬼は特殊な封魔ビンに依り代の標本ごと封印されると、生物準備室の奥に二度と出て来られない様に封印されていたのだ。

 ――さて、その宿鬼がどうして蘇ったのか? と言うと、準備室を整理していた生物教師に発見され、封印を解かれてしまったからである・・・・。

 そのビンの中のホルマリンはずっと放置されていた所為でほとんど気化していた。そして、それを見た教師が蓋を開け、ホルマリンを足してしまったのである。ホルマリンには宿鬼の活動を減退させる効果はあったが、肝心の封印が破られてしまった為、宿鬼は蘇ったのだった。

 が、ここまでならまだ状況はそれ程宿鬼に有利とは言えなかった。

 戸田の話はこうであった。――宿鬼を封印していた封魔ビンには宿鬼の力を封じ込める作用があると言う。それはもちろん妖気なども完全に遮断してしまう。これまで宿鬼を発見する事ができなかったのは皮肉にもその為である。

 つまり大地たちには直接目にする以外、宿鬼を発見する手段はない。しかも、宿鬼自身はビンの内外へ自由に出入りできる。

 それは宿鬼にとってビンの存在がプラスになっても、マイナスにはならないと言う事を意味する。そして、その特殊な封魔ビンは封鬼委員会たちの攻撃も遮断してしまうだろう。

 宿鬼の目的は封鬼委員会へ復讐する事だと、戸田は語った。動物の虐殺はその為の演出に過ぎない。そして

 「もう一刻の猶予もなりません。奴の暴挙を、これ以上放っておくわけにはいかないのです!」

 と、戸田は息巻いた。

 しかし、その戸田を当然、雫はいさめた。

 「先生・・・・、相手は悪霊です。私たちに任せて下さい」

 「いえ、そう言うつもりでここへ来たのではないのです」 

 「え――?」

 「私にも『力』はあるんです。・・・・微力ながら手伝いますよ!」

 戸田はそう言うと、あの笑みを浮かべたのだった。

 

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