恐る恐る教室に入ると 「遅いぞ〜、亜由美くん」 と、間延びした大地の声。教室の中には彼と、既に二人――アベックのようだが――の生徒がいた。 ・・・・やはり間に合わなかったらしい。内心で栗間の事を罵倒しながら、亜由美はすいません、とあたふたと席に着いた。 「あの・・・・」 そして二人の訪問者を覗う。 ――封鬼委員会に手紙が来たのがつい先日の事である。女性の綺麗な文字で、至急相談したい事があると言うような内容が書かれてあった。その中で指定されていた日時が今日なのだが、まさか相手が彼氏(だろうと思われる)と一緒に現れるとは思ってもみなかったので、亜由美は少々面食らっていた・・・・。 「こちらが相談者で、三年の片瀬 清香さん。で、こちらがその――」 大地が付き添いの男子生徒を指すと 「比嘉です」 と、彼は低い声でしかし、はっきりと名乗った。 亜由美は密かに比嘉と清香を見比べる。――見たところ普通のカップルのようだ。相談者の清香には当然精気がなく、比嘉が彼女を守るナイトのように付き添っている。その彼の自己紹介に付け足すように、清香が口を開いた。 「えっと・・・・、謙二がここの事を教えてくれたんです。自分よりこっち――、あの、皆さんの方がいいだろうって言う事で・・・・」 「えぇ、分かります・・・・」 と、亜由美は社交モードで頷いて「で、どう言った・・・・?」 進行役は彼女である。大地は机の上で手を組んだまま、そのやり取りを聞いていた。しかし―― 「ちょっと待って下さい」 と、口を挟んだのは比嘉である。のっけから待ったをかけられて、亜由美は眉を微かに歪める。 「あの、何か?」 言葉尻が少々きつくなったかも知れないが、この際気にしない事にして・・・・。 「いや・・・・、話をする前に確認しておきたい事があるんだけど」 「はい」 「これから清香が話す事はここだけの秘密にしておいてもらいたいんだ」 口調の割には比嘉がジロリと睨みを効かす。 「それなら――」 「それからもう一つ」 「は、はい」 「清香の悩みを必ず解決してもらいたい・・・・!」 「――分かりました。約束します。我々には守秘義務と言うものがあります。絶対に他言しません」 ここは大地が受け応える。負けるな先輩――、と内心工ールを贈ったりする亜由美。 「でも――」 と、彼。「清香さんの悩みって言うのは、聞いてみないと何とも言えませんね・・・・!」 一瞬、大地と比嘉の視線がぶつかるが 「・・・・分かった。お願いするよ。清香――」 次の瞬間には肩をすくめた比嘉が清香を促していた。 亜由美と大地の視線が清香を射る。順番の回ってきた彼女はしばし目を閉じ、何から話そうかと考えているようだが、やがて決心が付いたのか真っすぐに目前の二人を見比べて、ゆっくりと口を開いた。 「連続放火事件は、ご存じでしょうか・・・・?」 「・・・・は?」 思わずそう声を上げたのは大地である。話がいきなり妙な所へ飛んでしまった。「が、学校に放火なんてありましたか・・・・?」 いや、そんな話を聞いた事はない。急に嫌な予感が亜由美の胸を締め付け始める。今、放火事件と言えばこの近辺で騒がれている小火騒ぎの事でしかない――。 「あの――、放火事件って、この辺りで起きてる・・・・?」 亜由美は遠慮がちに尋ねる。学校の事じゃないのか? と言う大地の視線を感じながら。 「はい。そうです・・・・」 清香は、何とも遣り切れない表情で答えた。 それならそうと言ってくれよな――。 照れ隠しに大地が腕を組んで憮然とする。それを横目で見て、亜由美は話を続ける事にした。 「あの、放火事件が何か関係あるんですか?」 その質問に、清香は一瞬躊躇して、しかし悲痛な声で一言、こう言った。 「私が犯人かも知れないのです」
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