父に浮気相手がいたと言う事を知ったのは、母が死んで、しばらく経ってからだった。 軽薄そうな女だった。 尻軽そうな女だった。 何も知らない妹はよくなついていたけれど、僕はあからさまにその女を軽蔑した。女は僕の事を厄介者ぐらいにしか思っていないらしく、機嫌のいい時に――それは大抵酒を飲んだ後だったけど――馴れ馴れしく話し掛けてくるくらいで、これと言って会話もしなかった。 ただ、父はあの女の事を本気で好きだったらしい。そんな事は面と向かって聞けはしないけど、何となく分かった。 女は、母が死んでからよく家に来るようになった。 父は父で、その事を手放しで喜んでいる節があった。 僕はどうでもよかった。その内、女の方でも僕が倦厭しているのが分かってきたらしく、会話はますます少なくなった。多分、父は女と結婚する意志があったのだと思うが、そんな事は僕には関係ない。 その女が、家に見知らぬ男を連れ込んでいたのを、僕は偶然にも見つけてしまった。 それはたまたま学校が午前中に終わった日だった。 僕は喘ぎ声のする、二階の父の部屋を覗いたのだ。そこにいたのは声の主であるあの女と、父よりも若い、見た事もない男の姿だった。 その時。 今でも、頭に全身の血液が音をたてて昇ったのを覚えている。 次の瞬間には、女の裸身にかかっていたシーツが激しく燃え上がっていて――。・・・・。 ――それからの事を、僕はよく覚えていない。 気が付いた時、僕は病室のベッドの上にいた。父が僕の顔を心配そうに覗きこんでいたのを覚えている。 あの女はあれ以来僕と父の前に姿を見せなくなった。父はそれからすぐに事故で亡くなり、妹と僕は親類の家に引き取られた・・・・。
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