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片瀬 清香が順風高校の誇る進学クラス三年生のトップの一人である事を亜由美に教えたのは寺子屋 文雄だった。

ご存知だと思うが、寺子屋も亜由美たちと同じく封鬼委員会のメンバーで、麗子の同僚、つまり三年生である。そして、その彼自身も進学クラスに在籍している。

亜由美は麗子からアドバイスを受けて、受験勉強の忙しさからか最近委員会に顔を見せない寺子屋に電話をかけたのであった。

「片瀬の事だろ?」

寺子屋は相手が亜由美だと言う事に気が付くと、早速先手を打ってきた。彼と話している時にはこれくらいの事は当たり前である。

寺子屋は受話器の向こうで眼鏡を上げているのか、一呼吸置いてこう切り出した。「今の彼女を一言で表すなら、スランプだな」

「スランプ、ですか・・・・」

「あぁ。成績がかなり落ち込んでるらしい」

そうすると亜由美なんかは万年スランプである。父の慶一郎は成績の事で一言も怒った事はないが、成績表を見せる時に浮かべる妙な笑顔だけは未だに慣れない。

「まぁ、成績が落ちるのは自分の所為だとしてもだ、それによって周囲の彼女に対する態度は変わってしまったところがあって――」

ここが進学クラスの嫌な所だよ、と寺子屋はぼやいて

「その所為か片瀬は最近と言うか、以前にも増して暗くなったな」

と、結んだ。

「そうですか・・・・」

分からないでもないが、亜由美にはそれはちょっと別世界の話に思えた。

「片瀬が放火魔なんだって?」

「――記憶は無いらしいんですけど、本当にそうなのか、自分で思い込んでるだけなのかはまだ分かりません」

「あぁ、それも聞いてるよ・・・・」

と、頷く寺子屋。麗子から話は流れているに違いない。三年生二人の連携の良さは、今更実感する事でもなかったが、亜由美は二人が卒業してしまう事にふと、寂しさを感じてしまう。

「でも、あながち思い込みとも言えないな、片瀬が放火魔だとしてもおかしくはないよ・・・・」

「えっ?」

「いや――、最近の彼女を見てるとそんな気になってくるんだよ。ノイローゼとでも言うか、鬱病とでも言うか・・・・」

寺子屋の言葉はあくまで傍観的であった。少なからず居心地の悪さを感じたが、亜由美は極力無視する事にする。

「そうそう、比嘉だっけ? 片瀬の彼氏だって言った奴・・・・?」

そうと確かめたわけではないが、

「あ、はい。比嘉って言ってましたけど・・・・何か・・・・?」

寺子屋は彼の事を知らないらしい。となると、比嘉は進学クラスの人間ではないのだろう。

「斉藤 祥子って言うちょっとした美人が二年の進学にいるんだけど、そいつがその比嘉某の事を好きらしいんだ」

「え、それって――」

三角関係、と言う言葉を飲みこむ。

「その斎藤って奴、随分と比嘉に付きまとってるらしいよ――」

寺子屋はそこまで言って、あまり事件に関係ないと思ったのか

「で、話は変わるけど、大地とはうまくいってるのかい?」

と、亜由美がむせ返りそうな事を聞いてきた。

 

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