T-D

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封鬼委員の雫の家に、比嘉が移転されたのはそれからすぐの事であ

る。雫の家と言っても、彼女の父が経営するなかなか立派な病院に移さ

れたのである。

今でこそその名に『滝』と入れているが、以前――と言っても随分と

昔の事だが――は違っていた。もともとこの病院は滝の恩師が経営して

いた病院であり、滝はその一人娘と結婚したのである。当然、最初は恩

師の名を掲げていたのだが、彼が亡くなり、その一人娘――、つまり滝

の妻も亡くなって、病院名は現在のものへと変わる事となった。

敷地と隣接して大きな湖があり、一部の病棟は湖の上に迫り出すよう

に建てられている。なかなかユニークなその造りは、一望できる自然環

境が患者のセラピーに効果があるとか、窓から釣りができるとかでこの

近辺ではそれなりに有名だった。

そこへ比嘉を移転させるように働き掛けたのは三宅であった。その方

が彼にとって何かと都合がいいらしい・・・・。

 さて、五度目の出火は封鬼委員会に大きな衝撃を与えるところとなっ

た。事件の翌日には亜由美と大地に――姿を現さない雫、補習のある寺

子屋の二人が欠席――麗子が加わって、今回の事件の整理が行なわれる

ことになった。

 比嘉は当然の事、清香も今日は学校を休んでいた。

「まず、三宅先輩の見たって言う、不審な男性なんだけど、依然とし

て正体は不明、と」

麗子が家で作ってきた資料――B-5の用紙二枚に事件の整理がなさ

れているだけであったが――を後輩二人に配る。

「スゴイ、放火のデータも調べたんですか?」

「あぁ、それはね亜由美ちゃん。三宅先輩が持ってたのを拝借した

の」

麗子は短く舌を出しておどけたように笑うと

「ま、みんな連続放火事件についてはあんまり調べてないだろうと思

ったんで、まとめてみたのよ」

そう言う。

「木曜日――? あ、確かにそうですね」

「えぇ。こうやって見ると、気が付いてなかった事もたくさんあるで

しょう?」

 「・・・・はい」

亜由美は資料の一枚目を捲って

「このショーウインドーで出火って言うのは?」

と、顔を上げた。あぁ、それはね、と麗子。

「片瀬さんの目の前でショルダーバックが突然燃え上がったらしいん

だけど、原因・その他詳しい事は不明!」

「でも、変ですね」

「変でしょう?」

 麗子は我が意を得たりと、頷く。「どこがどう変って言うんじゃない

んだけど、何か、おかしいのよね」

護身石が全くと言って役に立たなかったことも亜由美にとってはショ

ックだった。その事を言うと、麗子はまたしても大きく頷いて口を開い

た。

「それはね亜由美ちゃん、あなたの所為じゃないわ」

「え?」

「今回の犯人は護身石でカバーできる対象外だったって事なの」

 「ど、どう言う事ですか・・・・?」

麗子の言わんとすることは分かる。しかしそれでは今回の事件は委員

会の出る幕ではなかったと言うことなのだろうか? 亜由美は麗子の答

えを期待して、ジッと彼女を見つめた。

「やだ、そんなに睨まないでよ。今のも三宅先輩の受け売りなのよ。

私もそれに関しては考え中・・・・!」

麗子は渋い顔でそう応えて「先輩、どうしても教えてくれなかったの

よ。ケチだと思わない!? 亜由美ちゃん!」

と、むくれた。

そんな麗子の反応にどう言っていいものか分からず、とりあえず苦笑

いの亜由美は再び資料に目を落とした。

――比嘉家の出火は、果たして何を意味しているのだろうか。清香が

犯人ならば、この火事はなかったのではないかと、亜由美は思う。彼氏

の家に火を付けるなんてどう考えても異常である。そして、亜由美には

清香がそこまでするような精神状態であるとは思えなかった。

清香の目前での出火の事も考えると、犯人は――。

「あれ・・・・」

と、亜由美が小さな声を上げたのを麗子は聞き逃さなかった。

「どうかした?」

「いえ・・・・、あの、比嘉先輩の事を好きだって言う・・・・」

斎藤 祥子の名前が無かった。寺子屋から聞いていないとすれば、亜

由美も迷った末に麗子に言ってなかったような気がする。

「え? 誰、それ?」

麗子が矢庭に顔色を変えると、身を乗り出してきた。

「彼女に関しては、この僕が」

と、麗子に負けず劣らず身を乗り出してきたのは大地――その場にい

るのかいないのか分からなかった彼だが、どうやらいるらしい!――で

あった。彼は麗子が何かを言い掛ける前に口を開いた。

「斎藤 祥子は進学クラス二年の生徒なんですけど、結構美人です」

「・・・・うん、それで?」

いきなりの『美人です』と言う言葉に亜由美がピクリと反応したのを

目にして、麗子は笑みをかみ殺しながら相づちを打つ。

「これはいろいろ聞いて分かった事なんですけど」

大地は前置きを入れて「どうやら比嘉先輩に告白してふられたっての

は本当らしいですね」

と、言った。

「告白?」

「進学クラスの友人によると、その斎藤って言うのは女子のリーダー

格なんですけど、何て言うか典型的な優等生タイプらしくって、反対に

何て言うか敵も多かったりするそうです」

麗子は無言のまま亜由美と目を合わせる。彼女が少し微笑んだので、

もう少し黙って聞く事にする。

「――で、ここからが肝心なんですけど――」

と、一呼吸。

「彼女の母親が火事で焼け死んでるんです。これって、何か気になり

ませんか・・・・!」

一瞬、静寂。そして麗子の一言。

 「そうかしら」

 

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