〜記憶の散策〜
文・上山 環三
美帆は同級生だった。当時の彼女は目を見張るほど美しく、確 か男子生徒の彼女にしたい子ナンバーワンと言う地位を欲しいま まにしていた。もちろん十三年経った今も、彼女の美しさは変わ らない。そればかりか、大人の女の、艶やかな魅力が加味され、 何とも言えない存在感を醸し出していた。 しかし彼女自身は変わってしまっていた。 ――記憶障害とでも言おうか、彼女は精神を病み、打ちひしが れて私の前に現れた。 彼女の心の奥底の、隠滅され、抑圧された暗黒の部分が、彼女 の精神をじわじわと蝕み始めていた。 少なくとも、私にはそう診えた。 人気のない校舎の中に、くぐもった私たちの足音が響く。まだ 外のように風が吹いていない分ましだったが、それでもやはり寒 い。 私は高校生活の思い出を切り貼りして彼女に伝える。それも少 しずつ、出し惜しみするように話していく。 何故か、彼女の精神は高校時代のことを頑なに封印しようとし ていた。そしてその封印が、彼女の心に影響を与えていることは 明白で、それを開放しない限り彼女の精神は元に戻らないと私は 考えていたからだ。 |
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