〜記憶の散策         文・上山 環三

 

 屋上へと続く鉄の扉を開けると、太陽の日差しが足元へ差し

込んできた。

 いつの間にか風は止んでいた。どんよりと重苦しく広がって

いた雲も晴れ、太陽の光が辺りを照らしていた。

 美帆は何を考えているのか、口をつぐんだままさっきから黙

りこくっている。

 私は屋上の手すりに手を置いて、360度のパノラマを一望

する。

 空には太陽が、一時の隆盛を自慢するように照っている。そ

して、手すりの下には中庭の、植え込みが見えた。

 「美帆さん、覚えてますか?」

 「・・・」

 「鈴木先輩のこと――」

 鈴木という名を聞いて、彼女はよろよろと力なくふらつくと、

屋上の冷たいコンクリートの上にしゃがみ込んだ。

 「鈴木・・・」

 「そうだ」

 うつろな目が左右にぶれる。

 「ううぅ・・・!」彼女は頭を抱え込んで突っ伏した。

 「忘れるはずがないだろう。理恵先輩のことを――」

 「やめて!」

 彼女が声を張り上げる。その叫びは冬空へと吸い込まれ、後

には取り乱した彼女の痛々しい様だけが残った。

 「お願い・・・!やめて、やめてちょうだい!!」

 「忘れたとは言わさない。君が理恵先輩に何をしたのか!」

 「・・・お願い・・・」

 鳴咽交じりの声がこぼれる。

 「・・・やめて・・・「理絵」・・・!」

 そう言って彼女が泣き崩れた。

 

 

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