by くらげ
「ここは・・・何処だ?」 気が付くと俺はここにいた。辺り一面に広がる湖。そこに漂う一艚の小舟。その小舟の上に何をするでもなく、唯々立ち尽くす俺。さっきみたいな言葉がでてきても何ら不思議じゃない。 もう一度辺りを見渡す。 やはり何もない。水の他には。辺り一面水、水、水。 別にいい。穏やかな水面を見ていると、心が落ち着く。これを見ながらぼ〜っとするのも悪くない。 そんなことを考えながら、俺はその場に座り込む。 座ったときの振動で、水面に波紋が広がる。途切れる事無く広がり続ける波紋は、やがてその姿を晦まし、場は再び静寂によって支配される。 「閑かだな・・・」 あまりの静けさに、眩いたその一言でさえ大きく響く。 静寂・・・ 何をするでもなく、ただひたすらぼんやりとする。惚けたように、呆けたように。ふとすると深い眠りに堕ちるが如く、ただひたすらにぼんやりと。 「・・・」 どれくらいの時間こうしていたのだろうか。いい加減本当に眠りそうになったので、目を覚ますために顔を洗おうと、水を掬う。 広がる波紋。 水は凍てつきそうな程冷たかった。指先が鮮やかに痺れる。これだけで充分に目が覚めた。が、敢えて顔を洗う。 「ふう〜〜〜〜」 すっきりとした爽快感が体を包み込む。気分爽快とは正しくこういう事をいうんだろう、などと思いながら背伸びをして、徐に空を見る。 まだ日は高い。 下を見る。思ったより日の照り返しはきつくない。いや、寧ろ殆どないと言っていい程ない。 そこで気付いた。ここの水、恐ろしく澄んでいる。これ程にまで澄んでいるのなら、底が見えてもいいはずだ。にもかかわらず、全く底が見えない。見えるのは、永遠に続くのではないかと思うほどのブルーだ。見事なまでのグラデーションがそこにあった。 そして、この底無しの湖、生き物の気配がまるでなかった。冷たすぎるが故に、澄んでいすぎるが故に、生物がそこには存在できないのかもしれない。 そんな事を考えていると、再び眠気が襲ってきた。どうやら今度は追っ払えそうにない。そうして俺は眠りに堕ちた。ここが何処かもわからぬままに。 |
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