sakana.JPG (6332 バイト)                    by くらげ

 

 真直ぐとこちらを見つめてくる神魚。淀むことなく流れていく時。こちらを見つめてどれくらいの時が流れただろうか。やがて彼はゆっくりと頷き、独白するように語り始める。

 「宇宙は・・・たった一つの生命から始まった。くらげ。それがその生命の呼び名」

 「くらげ?」

 思い掛けない答え。くらげ。疑問がそのまま声となって口から出る。

 「そう。くらげ。この世界にその存在はないけれど、君の住む星にはいるんだろう? 聞いたことがある」

 そう言った後、「知ってる?」と聞いてくる。

 「知ってるって・・・知ってるも何も俺が一番好きな生物だ」

 「へ〜〜〜。そうなんだ」

 少し驚いたような声。だが彼は何となく納得しているようだ。勝手な推測だけど。

 「もし本当に未来っていうものがあるんなら、俺はくらげになりたいね」

 俺が胸を張って答えると、

 「くらげに生まれ変わりたい・・・か。まさしく変り者ここに極まる・・・だね」

 という有り難い一言を頂戴することができた。ほっといてほしい。

 「それにしても・・・あのぶよぶよのぶにぶにがね〜〜〜。水の母っていうのも、強ち大袈裟な表現じゃなかったわけだ」

 「水の母?」

 初耳だったのか、聞き返してくる。こいつにも知らないことがあったのか、とついつい嬉しくなってしまう。嬉しいついでに説明しよう。

 「ああ。俺がいた国の文字に漢字っていうのがあってね・・・『くらげ』をその漢字で書いたら『水の母』とか『海の月』っていう風になるんだ」

 「ふ〜ん。その文字を当てはめた人って知ってたのかな? そこまで的外れな表現じゃないよ。それは」

 心底感心したように言う。

 「どうなのかな? ま、それより話を戻そう」

 「ああ。そうだね。ついつい脱線してしまった。僕の悪い癖だ」

 そう言ってはいるが、然して反省はすまい。まだ短い付き合いだがそれ位は分かる。

 「で・・・何処まで話したんだっけ?」

 「ん、確か・・・そう。宇宙はくらげから始まったっていう全然最初の所」

 最初も最初。それしか話していない。

 「そうだったね。それじゃあ続けよう」

 そう言ってヌリシンハは再び話し始める。それにしても・・・宇宙がくらげから始まったって・・・どういうことなんだろうか。考えれば考える程、謎は深まっていく。まあ、いいさ。取り敢えず今は彼の話を聞こう。そうすれば少しは解るだろう。

 

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