sakana.JPG (6332 バイト)                    by くらげ

 

 そのくらげがいつ頃生まれたのかは解らない。神と呼ばれる種族が誕生したときにはもう既に生まれていたからね」

 再開された話の最初の言葉は又も俺を驚かせる。

 「神より先に生まれてたのか!?」

 「そうだよ。だけど、まあ・・・それも当然といえば当然のことなんだ」

 ヌリシンハは相変わらず澄んだ瞳でこちらを見て、落ち着いた口調で言ってくる。

 「・・・どういうこと?」

 さっぱり理解できない俺は素直に尋ねる。

 「ん・・・ああ、神っていうのも、元はといえばそのくらげから生まれたものだからね」

 「くらげから生まれた!? 神が!?」

 俺のなかの常識やらなにやらが音をたてて(たってないけど、気分的にね)崩れていく。

 「そう。さっき君が『くらげ』は『水の母』って書けるって言った時、そんなに的外れな表現じゃないって言ったろう。この生命は水だけじゃなく、万物の母なんだよ」

 「嘘・・・だろ?」

 俄かには信じがたい。というより信じられない。こうも簡単に、呆気無く、常識とは覆されるものなのだろうか。先の眩きだけが呆然とした俺の口から零れ出る。

 「まあ・・・信じる信じないは君の自由だけどね。嘘は言ってないよ」

 様々に変化をみせる世界の中で、彼の口調だけが変わらず落ち着いている。

 「くらげは生まれたその時から著しい速さで成長を始めたといわれている。そして成長していくにつれて、その躰にある一つの変化が訪れようとしていた」

 「・・・変化?」

 くらげに一体どのような変化が訪れるというのだろう。まあ、殆どゼリーみたいなものだから変化しようと思えば幾らでも変化できそうなものではあるけど・・・外見なら。

 「そう。変化だよ。生命の始祖たるこのくらげ、生誕後しばらくは、自分と同種の生命・・・まあ、簡単にいってしまえばくらげのことなんだけど、これだけを分裂によって産み出すことしか出来なかったんだけど、その成長の過程において、彼は自らの体内に自分とは顕らかに異種の生命を生み出すことに成功したんだ。その最初に生まれてきた種々の生命体を僕たちは神と呼んでいる」

 「・・・」

 丁寧に説明してくれた彼に俺が返したのは沈黙だった。だってそうだろう。こんな事聞かされて、はいそうですか、なんて返事が返せる訳がない・・・などと尤もらしい言い訳をしてはいるが、本当のところは只単に何て返事をしていいかが分からなかっただけだ。

 「ふう・・・」

 俺は溜め息を一つ吐くと、次を話してくれるよう促した。

 月明かりとプランクトンの優しい光が、俺達ふたり(?)を包んでいた。

 

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