by くらげ
一息つこうと空を見上げたその先に在るものは、二つの月。ぞっとする程美しく、澄んだ輝きで俺を魅せる蒼月と、脳髄が溶けんばかりに艶かしく、飽く迄不気味に輝く紅月。 暫し月に見惚れるも、ヌリシンハの一言が俺を現実に引き戻した。 「神というのは・・・元来各々が生物の単なる始祖にすぎなかった」 「始祖?」 何のことであろうか。 「簡単にいってしまえば、只の御先祖様っていうことだよ」 「御先祖? じゃあ血が繋がってるの?」 まさかね。常設的に考えても馬鹿らしい。そんなことあるはずがない。 「繋がってるよ。間違いなく」 聞き間違いだろうか? 「・・・え?」 「いや、だから繋がってるよ。血」 「・・・」 どうやら俺の耳は正常だったらしい。 「どうしたの? 笑うしかないって顔してるよ」 「は、はは・・・ははははは・・・嘘?」 これが笑わずにいられるか。一体神って何なんだ? 始祖? もう訳が分からない。 「最初に言ったよね。嘘は言わないよ」 だったら尚の事笑わずにはいられない。あまりにも莫迦げてる。 「別に何もおかしい事じゃないよ。それとも君達は本当に土から造られたとでも思ってたの? それとも猿か何か・・・別のものから進化した、とでも?」 「・・・思ってたよ! 思ってたも何も皆そう信じてる! それが常識っ・・・常識?」 常識って・・・何だ? 何が常識なんだ? 何が本当なんだ? 真実って・・・? 「何か・・・もう解らないよ・・・」 一体全体どうなってるんだ、世界は? ・・・いや、宇宙、か? 頭がおかしくなっている俺を見詰める神魚の瞳は、唯々静かだった。 何処かで魚の跳ねる音がした。 「・・・御免。取り乱して。続き・・・話してよ」 促す。 「いいの? 聞きたくないのに無理に聞く必要はないんだよ? 全ては君の自由だ」 「・・・。別に無理はしてないよ。ここまで聞いたんだ。最後まで聞くさ・・・」 俺の中で何かが吹っ切れたような気がする。ならばやる事は一つ。最後まで聞く事だ。偽りじゃない、本当のことを・・・真実というものを。 再び何処かで魚の跳ねる音がした・・・。 |
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