by くらげ
「そう。あなたの世界にはない・・・いや、もっと正確に言えば、あなた、つまり人間には出す事もできず、聞き取る事もできない発音・・・とでもいうのかな」 言った後も、尚も考え続けるような神魚。 「いや、やっぱり少し違う。訂正させてもらうよ」 そう言って黙り込む。きっと頭の中を整理しているんだろう。俺はそんな彼・・・彼女かもしれないけど、を観察する。魚なのにどうして、こいつはなかなかに仕種や表情が豊かだ。見ていて面白い。微笑みながら見ていると、不意に彼が声をかけてきた。 「何僕を見て笑ってるんだよ」 咎めるような台詞を、全く咎めるつもりがないように聞いてくる。 「あ、御免。気を悪くしたかな?」 素直に謝る。 「はは、全然。ただ何笑ってるんだろう、って思ってね」 別段隠すような事でもないと思った俺は、素直に話すことにした。 「いや・・・なんていうか、仕種とか表情っていうのかな? それが豊かだなって」 これを聞いて、今度は神魚が笑いだした。そしてこう言った。 「はは。それはこっちも同じだよ。時々この世界には人間がやって来るけど、皆仕種とか表情は面白かったよ。こっちは魚だからね。あまり動きとかでそういうのを表現できないけど、かわりに体の輝き方とかでそれらを表現してるんだ。それにしても、そんなのを指摘した人間は君が初めてだよ。観察力が鋭いね」 感心しつつも、変わってる・・・そんな感じの口調てある。いいさ、どうせ俺は普通の奴より変わってるよ。少しだけいじけながらも、一応誉めてくれた彼にありがとう。 「いやいや。それよりも考えてる途中悪かったね」 そう。そろそろさっきの答えというか、本当のところが知りたかった。 「ああ、そういえば。大丈夫。もう整理ついてるから」 そう言って彼は再び話し始めた。 「うん。じゃあ言うよ。一部本当に聞こえない音もあるけど、大体は間き取ることができる。ただ、君達人間はその音を聞いても、音として認識できない」 「は〜は〜。だから俺等には出すことができないっていうか・・・」 瞬間考え込む。もう少しいい言い方があるような気がする。 「う〜ん・・・あ、そうだ。それを表現できないわけだ」 「そういうこと。音として認識できないから、当然音としてそれを表現することもできない。とはいっても、君達の世界の発音に近い形に言い換えることも可能だけどね」 正直、気が遠くなるような話だった。が、一方で、もっとこの世界の事を知りたい、と思う自分がいる。いいだろう。俺が先ずやる事・・・それはこの世界の事をもっと知る事だ。先ずは知る事から始めよう。全ては・・・それからだ。 |
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