by くらげ
ヌリシンハと話し初めてどれくらいの時が流れたのだろう。ひどく短い時間だったような気もするし、そうじゃないような気もする。だが、充実した時間というのは、どんなに長い時間であっても短く感じるという。今回は恐らくそれが当て嵌まるのだろう。目覚めた時とは明らかに違う明るさが俺達を包み込もうとしていた。 日の出だ。朝日が昇る。 自分では気付かぬうちに、こうも早く時は過ぎていたのだ。 俺が水平線から昇りゆく太陽を眩しげに眺めていると、陰で同じくこの光景を眺めていたヌリシンハが口を開いた。 「もう夜明けか・・・そろそろお暇しないといけないな」 「・・・え?」 思わず聞き返す。 「眠りに就く時間なんだよ」 「昼に寝るの?」 聞き返さずにはいれない。 「うん。この世界の水の中は昼の方が暗いからね」 これを聞いて、この世界の水が、夜は光っていたことを思い出す。それを尋ねてみると、 「そ。まあ、正確にはプランクトンが光ってるんだけどね。彼らは昼の間に光合成をして得たエネルギーで夜輝く。奇麗だったでしょ?」 という事らしい。言われてみれば尤もだ。が、これだけ澄んだ水だ。余程深く迄行かないと、それこそ明るくて眠るどころではないだろう。それについて聞いてみる。 「確かにね。かなり深海の方まで行かないと駄目かな。尤も、この世界においては水圧なんてものは存在しないからね、どんなに深いところまで潜っていったとしても潰される・・・な〜んで事はないよ。だから誰でも深海魚になれる。深海はいいよ〜。落ち着いてものを考えるにはあそこが一番だ」 とまあ、そう言うことらしい。 「じゃあ・・・この時間は皆底の方に行っちゃうんだ?」 当然の疑問である。 「そういうこと」 あっさりと、だがしっかりとした肯定。 「という訳で理一朗。君とは夜までお別れな訳だ」 何ということだ。何か言う間もなくヌリシンハが更に口を開く。 「君も寝ながら待っとくと楽でいいよ。それじゃ、また夜に」 そう言い残して、彼は深海へとその姿を消していった。「また夜に」と言ったからにはまた夜に逢えるのだろうが・・・こうもあっさり帰られるとは。魚も以外と勝手なものだ。人間ばかりに言えたものじゃないな。まあいい。寝て待てと言うのなら寝て待つさ・・・ |
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